静岡鉄道A3000形電車(しずおかてつどうA3000がたでんしゃ)は、静岡鉄道の通勤形電車である。
1000形の置き換え用に製造される車両である。車両形式の由来は、「Activate(活性化させる)」「Amuse(楽しませる)」「Axis(軸)」の3つのAから。
2016年(平成28年)3月24日に最初の編成が営業運転を開始し、2024年(平成36年)頃までに総合車両製作所横浜事業所にて2両編成12本(合計24両)を製造する。編成はクモハA3000形(Mc・静岡側)-クハA3500形(Tc・清水側)となっている。
第1編成となるA3001 - A3501の2両が2015年(平成27年)12月15日に製造元の総合車両製作所横浜事業所から富士駅まで甲種鉄道車両輸送され[3]、17日に同駅より長沼工場まで陸送により搬入された。18日午後には報道陣向けに記念セレモニーが行われ、その後試運転を経て2016年3月24日から営業運転を開始した。また、同車の運用開始に先立ち、1000形1004F(クモハ1004 - クハ1504)が同月10日に定期運用を終了、翌日のお別れイベントをもって引退した。
1000形以来43年ぶりとなる新型車両の導入に当たって、静岡鉄道ではスペシャルサイトを開設(外部リンク項参照)、新静岡駅に運行開始日までのカウントダウンボード設置、各種イベントでのPR、さらに特別に撮影したイメージムービーをYouTube上で複数公開[4]するなど広報活動に力を入れた。
2017年(平成29年)3月24日からは、第2編成となるA3002 - A3502が営業運転を開始し、それに伴い1000形1002F(クモハ1002 - クハ1502)が3月18日に運用を終了した。
2017年5月24日付で「鉄道友の会」のローレル賞を受賞した。
車体
車体は普通鋼製の前頭部を除き、総合車両製作所のsustinaと呼ばれる新開発の軽量ステンレス車体を採用(私鉄の編成としては全国初採用)。前照灯、標識灯、尾灯には省エネルギー化と省メンテナンス化のためLEDが採用された。 前面と側面の行先表示器はフルカラーLED式となっている。白色での行先表示以外にも、多彩なイラストなどが表示できるようになっている。
運転台
ハンドルは1000形を継承したT字型ワンハンドルマスコンで、運転席を中心に人間工学に基づいた配置としている。ワンマン運用での安全運行と乗務員の疲労軽減のため、通常使用しないスイッチはキセ内に納め、シンプルで使いやすい運転台とした。
機器監視、空調や車内外表示器制御などを常に監視するモニタリング装置が設置され、乗務員支援や故障時における早期復旧に備えている。さらにドライブレコーダーを設置し、小型の前方監視カメラで記憶される映像により、万が一の事故の際に検証時間を短縮することができる。
内装
車内はオールロングシートで、車いす・ベビーカースペースを各車両乗務員室寄りに1ヶ所ずつ配置し、2段手すりを設置することで利便性向上を図った。車内灯は、LEDを採用することで省エネルギーと省メンテナンス化を図った。直接光と間接光のハイブリッド照明で、荷棚広告は直接光、客室内は間接光で照明する。客室では、左右の側壁をロールバーで結合することにより、構体の剛性と側面衝突など非常時における車内空間保持性能の向上を実現し、車体の振動も抑制できる。なおA3000形は全席優先席となる。
ドア上には32インチハーフサイズの液晶ディスプレイを用いた東芝製のデジタルサイネージ装置が1両に3ヶ所千鳥配置され、現在地や行先、列車種別、路線図や沿線案内などを高画質で表示するだけでなく、季節により背景が変わる仕様となっている。また、横長の画面を活かした表示の他、広告枠も用意して多彩な情報を提供する。駅名はインバウンド対策として、日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語を表示する。
窓ガラスはUVカットグリーンガラスを採用している。
つり革には、全国初となる2段つり革(1つのつり革に高さが違う2つの取っ手がついた吊革)を導入した。
また、各車両の天井には4台の防犯カメラを設置し、安全・安心な輸送サービスを強化を図った。
県外観光客や訪日外国人の呼び込みへ、無料のWi-Fiサービスも行う。
主要機器
主制御装置は、静岡鉄道の車両として初となるIGBT素子を用いた東洋電機製造製のスナバレス2レベル方式のVVVFインバータ制御(RG6033-A-M)を採用。1台の制御装置で2台の電動機を制御するインバータを2群(1群2台モータ駆動)搭載し、1群単位で解放可能なシステムとしている。制御方式は応答性とトルク制御性に優れたベクトル制御とし、遮断器等にはエアレス方式のアークレスタイプを採用することで保守の低減を図った。
主電動機は、省保守性、低騒音、高効率化を目的として、東洋電機製造製の全閉内扇式かご形三相誘導電動機(TDK6254-A)を採用した。開放部がない全閉内扇式のため低騒音化が図れる他、油潤滑方式を採用したことで、潤滑油の交換のみを行うことにより分解整備を不要とし、保守性が向上した。
補助電源装置は、容量100kVA、出力三相AC440Vの静止型インバータ(SIV)で、1台の装置に2台のインバータ部・制御部を内蔵した待機二重系を採用した。主回路構成は低騒音化に有利な3レベル方式のIGBT素子を使用した電圧形インバータとした。
ブレーキ方式は、回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキを採用し、滑走再粘着制御付である。
空気圧縮機は、かご形三相誘導電動機駆動によるスクロール式オイルフリータイプのURC1200D-Iを採用する。吐出し量は400L/minで3台設置する。
パンタグラフは、軽量化と保守省力化を図るため、同鉄道初のシングルアームパンタグラフを採用(東洋電機製造製)。すり板は焼結銅合金、ばね系は3元系構造とすることで、追従性能の向上を図った。クモハA3000に関節部分を連結面側に向けた形で取り付けられる[9]。
台車は、総合車両製作所製のTS-840(電動台車)・TS-841(付随台車)で車体直結式の空気バネ支持方式台車(枕梁付き)を採用し、1000形の台車をベースに細部をリニューアルすることで、さらなる性能向上を図った。車軸軸受は密封式として従来の軸受より保守性を向上させた。また、曲線通過時の車輪フランジ摩耗低減のため、フランジ塗油装置を装備している。この他、滑走防止制御を行うため付随台車の軸端には速度発電機を取り付け、各軸ごとの滑走防止制御を働かせる。
駆動装置はTD平行カルダン駆動方式を採用し、メンテナンス性と静音性の両立を図った。歯車比は99:14である。
空調装置は、冷房装置は三菱電機製のR407C冷媒を使用した冷房能力52.3kW(45,000kcal/h)の集中型装置(CU737)を屋根上に各車両1台搭載している。カレンダー機能や温度センサ、乗車率検知を使った全自動運転を行う。送風装置は横流ファン(ラインデリア)を各車両5台設置(うち1台は乗務員室内)した。暖房装置は750Wのシーズ線式ヒータをクモハA3000形には13台、クハA3500形には12台設置した。
車体デザイン
車両デザインは7編成は静岡市にちなんだ7色(1編成に1色ずつで、色〈およびイメージ、モチーフ〉は■パッションレッド〈情熱的 活動的、いちご〉、■プリティピンク〈かわいい ロマンティック、桜エビ〉、■ブリリアントオレンジイエロー〈暖かさ 幸福感、みかん〉、■フレッシュグリーン〈新しさ 優しさ、山葵〉、■ナチュラルグリーン〈安全 自然、お茶〉、■クリアブルー〈安心 誠実、富士山〉、■エレガントブルー〈上品 信頼、駿河湾〉)を採用し、「shizuoka rainbow trains」と称する。
5編成は無塗色で、全面広告車に対応する。
製造所 総合車両製作所横浜事業所
主要諸元
編成 2両編成2本(2両)
軌間 1,067 mm
電気方式 直流600V
(架空電車線方式)
最高運転速度 70 km/h
設計最高速度 90 km/h
起動加速度 2.5 (3.0) km/h/s
減速度(常用) 3.5 km/h/s
減速度(非常) 4.5 km/h/s
編成定員 238(座席78)人
車両定員 119人
車両重量 クモハA3000形 (Mc) 34.3t
クハA3500形 (Tc) 29.5t
編成重量 63.8t
全長 18,000 mm
車体長 17,580 mm
全幅 2,742 mm
車体幅 2,740 mm
全高 4,015 mm
車体材質 ステンレス
台車 総合車両製作所製ボルスタ付空気ばね台車
Mc車:TS-840・Tc車:TS-841
主電動機 東洋電機製造製 全閉内扇式かご形三相誘導電動機
主電動機出力 120kW
駆動方式 TD継手式中実軸平行カルダン駆動方式
歯車比 99:14 (7.07)
編成出力 480kW
制御装置 IGBT素子VVVFインバータ制御
(東洋電機製造製)
制動装置 回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ、保安ブレーキ、滑走再粘着制御
保安装置 i-ATS(変調方式MSK、車上パターン制御方式)、ATS-SN(点制御速度照査機能付)
備考 第1編成でのデータ
第57回(2017年)
ローレル賞受賞車両