783系電車(783けいでんしゃ)は、九州旅客鉄道(JR九州)の交流特急形電車。「ハイパーサルーン」の愛称を持つ。国鉄分割民営化後のJRグループ初の新型特急車両として、1988年(昭和63年)3月13日に営業運転を開始した。
開発当時、九州地方では都市が点在している都合、高速道路網の急速な整備が進行していた。こうした背景から競合他交通機関(自家用車や高速バスなど)は発達しており、本来ならば十分に競争力を持つ特急車両が必要であった。しかしながら従来使用されていた485系電車は陳腐化が激しく、また今後の速度向上も望めないことから見劣りは否めなかった。そこで新しい設計思想を取り入れた車両が迅速に必要となり、開発されたのが本系列である。JR九州としては初の新造特急形電車であるが、車両自体の開発計画は日本国有鉄道(国鉄)時代末期の1986年(昭和61年)夏にまで遡ることができる。設計には国鉄末期に開発された新しい技術を多く取り入れている。485系電車と比べると居住性は大幅に改善され、また130km/h運転を前提として設計されたのも特徴である。
JRグループとして初の新形車両ということもあり、登場時は大いに注目を集めた。
車体
軽量なオールステンレス車体が採用された。乗降扉とデッキを車体中央部に配し、各車両の客室を前後に分割しているところが、一般的な車端部に乗降扉を設ける他の特急形車両と大きく異なっている。客室側窓の上下寸法は従来の485系に比べてグリーン車は70 % 、普通車は35 % 拡大されており、客室からの展望に配慮された。先頭車の前頭部は普通鋼製で、スピード感を持たせるため大型の前面窓には50度の傾斜角がつけられ、客室からの前面展望を可能とするため、運転台と客室との間の仕切り壁を低くするとともに、客室の腰掛部分の床面を通路より200 mm高くしている。
車体断面は、211系電車等のステンレス製近郊形電車と同一とされ、全員着席を前提として車体断面を縮小した従来の一般的な特急形車両と比べて、車内空間が大きくなっている。
車体色はステンレス部分は無塗装で、側面窓下に赤色と白色の帯が入っている。普通鋼製の先頭車前頭部は白色に塗装されているが、クモハ783形は先頭部正面まで帯が回り込んでいるのに対し、クロ782形およびクロハ782形では側面の運転席下部で帯が途切れており、正面までは回り込んでいない。また、「かもめ」用として製造されたグループ(クモハ783-10、14、クロ782-5、8。4両とも日立製作所製)は、前頭部から乗降扉までの帯色が水色になっている。また側面窓の間柱は黒く塗装されており、連続窓風の外観としている。
台車・機器
台車は、電動車にはDT50Q形を、制御車・付随車にはTR235Q形を採用している。これらは205系電車以来採用されているDT50形・TR235形空気ばね式軽量ボルスタレス台車に、ヨーダンパ追加など若干の設計変更を加えたものである。
電動車は、1両単位で必要な装備をすべて搭載する1M方式を採用した。主回路制御方式としてサイリスタ連続位相制御を用い、1両あたり4個の主電動機(直流整流子電動機)を駆動する。主電動機は当時の電車として一般的な直巻整流子電動機(電機子と界磁が直列)ではなく、界磁を電機子と並列配置した他励方式としている。サイリスタ連続位相制御に使用されている主制御整流装置は、2次側に電機子制御用の主回路用ブリッジ整流回路を4つ(ブリッジすべてがサイリスタで構成されているサイリスタ純ブリッジを採用している)のほか、界磁制御用のブリッジ整流回路を1つ(サイリスタとダイオードで構成されたサイリスタ・ダイオード混合ブリッジを採用している)を備えており、ともに連続位相制御を行なって交流回生ブレーキを可能とする構成である。このシステムは713系電車を基本としたものだが、主制御整流装置の小型軽量化が図られている。
ブレーキシステムには電気指令式ブレーキを採用し、回生ブレーキトルクを制御器内で演算して不足分を空気ブレーキで補う電空協調制御である。ブレーキ性能向上により、JRの在来線用で初めて最高速度130 km/h に対応する車両となった。
消費電力については、415系の約63パーセント(1両あたりの消費電力の理論値で、415系を100とした場合の比率。)である。
運転席まわりの機器配置も211系電車に準じている(横軸式マスコンハンドル + 縦軸式ブレーキハンドル:常用7段 + 非常)が、マスコンハンドルはT字形となっている。また、ATS電源を含めすべての表示灯を計器盤左側の多重表示画面に表示するようになっている。ちなみに、1両単位での多重表示画面は9両までの対応であり、10両以上連結した場合は編成単位での表示となる。現在のところ、編成単位表示に切替わるのは「きらめき」での3編成連結列車の場合のみである。
後日装備として、ATS更新工事の際にATS-DKの表示コンソールが運転台右に取り付けられた。視認しやすいように斜め向きに取り付けらている。
一つの車両の客室を二分化することで、グリーン席と普通席、喫煙席と禁煙席、指定席と自由席とを必要に応じて柔軟に設定できるようになった。1両を2室に分割したのは、輸送単位の小さい地域での短い編成での運用も想定していたためである。なお、分割した客室は下り方がA室、上り方がB室と呼ばれ、車内放送でもこのように案内されている。この構造のため、揺れの大きい車端部にも座席が設置されている[5]。
グリーン室の座席は、485系クロハ481形で採用された横2列 + 1列の広幅リクライニングシート(2人がけのAB席と通路を挟んで1人がけのC席)を採用し、各座席は1,200 mm 間隔で配置している。肘掛にマルチステレオ設備を備え、座席の背面には液晶テレビを設置している[1]。ただし、2次車以降では肩部の角を切り落とし、客室からの前方視界を向上させている。
普通室の座席は、横4列(2 + 2列)のリクライニングシートを960 mm 間隔で配置している。普通車でもフットレストを設け、床面はカーペット敷きとなっている。1988年度製造の2次車からは普通車にもマルチステレオ設備を設けたが、テレビは設置されていない。
また、JR九州の特急形車両として初めて、客室とデッキを仕切る扉の上部にLED式車内案内表示器が設置された。2次車以降では、運転席と客室との仕切上にも設置されている。なお、この系列では「見えるラジオ」を利用したニュース配信には対応していない。
自動放送も本系列で初めて採用された。当初はエンドレステープによる放送であったが、後に現行の放送[要追加記述]に変更された。なお、当初の放送では始発直前および終着直前にJR九州社歌『浪漫鉄道』のフルオケ(ハイ・ファイ・セットのボーカル入り。ただし曲順は原曲とは異なる)が流れていた。当初備えられていたテレビ・マルチステレオは、現在は普通室・グリーン室ともにすべて撤去されている。
1988年から1991年までの間に計90両が製造された。メーカーは日立製作所、近畿車輛のほか、JR九州小倉工場でのノックダウン生産も行われた。
クモハ783形 (Mc)
普通席を備える上り方制御電動車。前位側(B室)は座席設置面が20cm嵩上げされ、客用窓の上方向に拡大されている。またトイレ・洗面所は設置されていない。パンタグラフを後位側に、主変圧器を床下に備える。2次車 (8-15) では乗降扉後位側に行先表示幕を備えるほか、運転室と客室との仕切部にも車内案内表示器が設置されている。なお、2次車以降の先頭車は側面運転席側の窓のうち、運転席側の先頭側の三角小窓が省略されている[8](クロ782形、クロハ782形でも同様)。定員60名(A室32名/B室28名)。
モハ783形
普通席を備える中間電動車。
0番台 (M)
トイレ・洗面所は全車の前位側に備え、パンタグラフを前位側に、主変圧器を床下に搭載する。行先表示器は1次車 (1 - 4) ではLED式を前位側、2次車 (5 - ) は字幕式を乗降扉後位側に備える。当初は「かもめ」と、西鹿児島駅を発着する「有明」編成にのみ連結されていた。パンタグラフを撤去し、高圧亘り線を屋根上に設置することで、モハ783系100番台と同等の使用が可能である。定員64名(A/B室とも32名)。
100番台 (M1)
クモハ783形とペアを組む。車両番号は相方のクモハ783形の番号に100を加えたものである。パンタグラフは設置されず準備工事に留まっているが、特高圧電力をクモハ783形からわたり線を経て受電する[ことから主変圧器は装備されており、わたり線を撤去し、パンタグラフを設置することで0番台と同等の使用が可能である。その他の諸元は0番台に同じ。定員64名(A/B室とも32名)。
JR九州783系電車
基本情報
運用者 九州旅客鉄道
製造所 日立製作所
近畿車輛
九州旅客鉄道小倉工場(艤装のみ)
製造年 1988年 - 1991年
製造数 90両
運用開始 1988年3月13日
主要諸元
軌間 1,067 mm
電気方式 交流20,000V (60Hz)
(架空電車線方式)
最高運転速度 130 km/h
全長 21,050 mm (先頭車)
20,000 mm (中間車)
全幅 2,950 mm
全高 3,670 mm
主電動機 直流整流子電動機(他励方式)
主電動機出力 150 kW × 4 / 両
駆動方式 中空軸平行カルダン撓み板継手方式
制御方式 サイリスタ連続位相制御
他励界磁による弱め界磁 (60%)
制動装置 電気指令式
(回生・抑速ブレーキ付)
保安装置 ATS-SK、ATS-Dk