キハ85系気動車(キハ85けいきどうしゃ)は、東海旅客鉄道(JR東海)の特急形気動車。JR東海発足後の新形式第1号であり、そしてJR東海が運行する特急列車に掲げる「ワイドビュー」を最初に冠した車両でもある。
概要
JR東海が保有するキハ80系の置き換えおよび所要時間短縮のために開発され、1989年から製造された。1989年2月から高山本線の特急「ひだ」に使用され、1992年からは紀勢本線の特急「南紀」にも使用されている。1989年の通商産業省グッドデザイン商品(現・日本産業デザイン振興会グッドデザイン賞)に選定され、1990年にはブルーリボン賞を東日本旅客鉄道(JR東日本)651系電車と争ったが、次点となった。外観デザインは手銭正道、戸谷毅史、木村一男、松本哲夫、福田哲夫による。
仕様・構造
車体
車両軽量化とメンテナンスフリーのため、車体はステンレス鋼を用いた軽量構体を採用する。外部塗色は、側窓上部にダークグレー、側窓下部にはJR東海のコーポレートカラーであるオレンジの帯を巻く以外は無塗装である。先頭部は衝突事故がおきたときなどに復旧が難しいため普通鋼製とし、腐食防止のために白色塗装を行っている。本系列の意匠をはじめとする基本構成は、JR東海で以降新製される在来線用車両の多くに基本仕様として踏襲されている。観光路線である高山本線や紀勢本線への投入が前提であったことから、眺望性の確保について様々な配慮がなされており、非貫通型先頭車の運転席後部を全面ガラス張りとした上、三次曲面のフロントガラスと運転台上方の天窓で前面展望を確保している。方向幕は列車愛称・行先用と号車・座席種別用を上下別に配置している(キハ84-300のみ左右別配置)が、後者をLED式としている車両(初期車)もある。
駆動系
本系列の最大の特徴は、日本製の国内向け旅客車両としては数十年ぶりに輸入ディーゼルエンジンが搭載されたことである。日本国外の設計によるエンジンは、1950年代にディーゼル機関車用のエンジンが日本でライセンス生産された例があるが、気動車用としては戦後例のない試みである。これは、貿易摩擦により「内需拡大」が叫ばれていたバブル経済期において、気動車の高性能化のため、国鉄型内燃機関において低出力(当時の気動車用エンジンは出力よりも信頼性&耐久性が重要視されていた)に甘んじていた日本製品にこだわることなく低コストで優良なエンジンを求め、同時に同車の先進性を新機軸によって訴求することを狙ったものである。
採用されたのは、アメリカ合衆国のディーゼル機関メーカーであるカミンズ社の直列6気筒・排気量 14 L の直噴式ターボディーゼル機関 NT-855 系である。各国のカミンズ社工場・ライセンス契約したメーカーによって種々の仕様で製造される汎用性の高い機関で、本系列のものはカミンズ・イギリス工場製の水平シリンダー形 NTA855-R1 (JR東海形式:C-DMF14HZ 形、350 ps / 2,000 rpm)で、1両に2基を搭載する。高出力の駆動機関と自動制御化された多段式液体変速機(新潟コンバーター製C-DW14A 変速1段・直結2段 自動式)と組み合わせることで、著しい速度向上を成し遂げ、「電車に匹敵する性能の気動車」と評された。
ブレーキ装置
キハ80系の自動空気ブレーキに対して応答性に優れる電気指令式空気ブレーキが採用され、機関ブレーキ・コンバータブレーキも装備する。これは気動車として初めて電気指令式ブレーキが採用された事例である。
台車
台車はヨーダンパ付きボルスタレス台車のC-DT57形が採用された。
各形式
0番台(1 - 14)
「ひだ」用として製造された非貫通タイプの普通先頭車。先頭部は大型曲面ガラスとルーフウインドウによって構成され、前面展望に配慮してある。定員60名。
JR東海キハ85系気動車
基本情報
運用者 東海旅客鉄道
製造所 日本車輌製造・新潟鐵工所・富士重工業
製造年 1989年 - 1992年
製造数 80両 + 代替車1両
運用開始 1989年2月18日
投入先 高山本線・紀勢本線ほか
主要諸元
軌間 1,067 mm
最高運転速度 120 km/h
車体 ステンレス
台車 C-DT57形
円錐積層ゴム式ボルスタレス台車(ヨーダンパ付)
動力伝達方式 液体式
機関 カミンズ製C-DMF14HZ*ディーゼルエンジン × 2基
機関出力 350 PS
変速機 変速1段、直結2段(自動変速) 減速比2.28
制動装置 機関ブレーキ・コンバータブレーキ併用電気指令式ブレーキ
保安装置 ATS-ST、ATS-PT
備考 *カミンズ社での呼称はNTA855-R1