JR東日本E231系電車
E231系電車(E231けいでんしゃ)は、東日本旅客鉄道(JR東日本)の直流一般形電車。
概要
老朽化および陳腐化が進んだ首都圏の通勤車両(103系、201系、205系ならびに301系)および近郊形車両(113系ならびに115系)の置き換え用として開発、投入された。0番台は2000年(平成12年)3月より中央・総武緩行線(習志野電車区)に、次いで近郊タイプが同年6月より東北本線(宇都宮線)(小山電車区)に、500番台が2002年(平成14年)4月より山手線(山手電車区)に、そして800番台が2003年(平成15年)5月より地下鉄東西線直通用に、それぞれ順次投入され、現時点ではその運行範囲は宇都宮線、常磐線、成田線、東海道本線、伊東線、高崎線、上越線、両毛線、横須賀線、武蔵野線、湘南新宿ライン、上野東京ラインにまで拡大している。
省エネルギー化と生産コスト、メンテナンスコストの大幅な削減を目的にJR東日本が1990年代に開発した「新系列車両」の技術に加え、運行制御システムへの新機軸の採用により、その後の鉄道車両の開発にも大きな影響を与えた。本系列の開発目標としては「ライフサイクルコストの低減」「サービス向上」がある。本系列はJR東日本と東急車輛製造が共同開発した車両であり、東急車輛製造のほかに川崎重工業やJR東日本新津車両製作所でも製造されている(ただし、グリーン車は新津で製造された実績がない)。
運用路線は首都圏近郊区間全域に拡大しており、2010年(平成22年)現在ではJRグループで同一系列の最多配置両数を誇り、2011年夏に総生産両数は2,736両に達した。山手線用の6扉車サハE230-500番台104両と中央・総武緩行線用の6扉車サハE230-0番台3両が廃車になったほか、サハE231-4600番台1両がE235系に編入されたため、2015年4月1日現在の在籍数は2,628両である。
車両のデザイン開発は榮久庵憲司主宰のGKインダストリアルデザインが担当している。本系列の開発により、JR東日本は平成18年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰(対策技術導入・普及部門)を受けた。その理由は省エネルギー化およびリサイクル可能部品の多数使用、さらに他社での技術採用により鉄道業界全体の省エネなどに貢献しているとする点である。さらに、本系列およびNEトレインの開発・導入によってJR東日本は「省エネ車両の継続的導入と世界初のハイブリッド鉄道車両の開発・導入」という理由により、第16回地球環境大賞の文部科学大臣賞を受賞した。
機器構成
本系列は従来の通勤形電車・近郊形電車の区分を統一した一般形電車として設計され、その動力性能は歯車比 7.07、最高速度 120 km/h 、起動加速度 2.5 km/h/s(500・800番台と近郊タイプは除く)である。VVVFインバータ機器の性能向上と主電動機の強化(高回転に対応した設計のMT73形の採用)により、近距離用の通勤形電車である209系(歯車比 7.07、最高速度 110 km/h、起動加速度 2.5 km/h/s)と同等の加速力を維持しつつ、中距離電車用の近郊形電車であるE217系(歯車比 6.06、最高速度 120 km/h、起動加速度 2.0 km/h/s)と同等の最高速度を達成している。MT73形主電動機は三菱電機・東芝・東洋電機製造の3社で製造されている。
ブレーキ方式は電気指令式空気ブレーキと電力回生ブレーキを組み合わせた方式で、電動車では停止寸前まで電力回生ブレーキが使用可能なほか、空気ブレーキの遅れ込め制御も併用している。これには後述する TIMS による編成単位での遅れ込め制御を行うことで、各付随車で制輪子の磨耗を均等にすることを可能としている。なお、山手線用の500番台と東西線直通用の800番台は純電気ブレーキにも対応している(直通予備ブレーキ・耐雪ブレーキ・近郊タイプのみ抑速ブレーキ付き)。近郊タイプ先頭車のTIMS配電箱ではTIMS端末演算ユニット(IMS = TIMSに使うソフトウェアの名称)、配電盤 (NFB) 、接地スイッチ (GS) に、ATS-Pなども内蔵されている。ブレーキなどに空気を供給する電動空気圧縮機 (CP) は209系やE217系等で実績のあるクノールブレムゼ製の低騒音形スクリュー式を搭載する。本系列では除湿装置を含めて装置全体を一体箱に収納したものとなっている(コンプレッサユニット箱)。
台車には209系と同じく軸梁式のボルスタレス式台車を使用し、動力台車はDT61系・付随台車はTR246系が採用されている(ただし、サハE231形4600番台はE233系タイプのTR255A形)。近郊タイプのヨーダンパはE217系と同じくグリーン車にのみ取り付けられており、通勤タイプも含めた普通車は全車両が取り付け準備のみである(将来の速度向上を考慮したもの)。なお、ヨーダンパは後年になり撤去されている。先頭車の前位側台車には留置時の手歯止め設置を省略できるように駐車ブレーキを設置している。集電装置には従来の空気シリンダと手動リンクに代わる「電磁鉤外し」方式のシングルアーム式パンタグラフ(PS33B形・ただし、900番台はPS33形、0番台のB80 - 82編成はPS33D形)が採用され、折りたたみ高さは全車 3,980 mm に統一されており、中央本線の高尾以西の狭小トンネル区間の走行が可能である。そのため、パンタグラフを持つモハE231形には、車両番号の前に高尾以西へ入線可能な事を示す「◆」マークが付いている。
車両に搭載される機器の制御方法がそれ以前に製造されていた車両系列とは大きく異なり、非常ブレーキなどを除くほぼすべての機器の制御を TIMS (Train Information Management System) と称する情報管理システムを通じて行っている。通信のインタフェースには RS-485 (伝送速度2.5 Mbps)を用いている。これは高速データ通信技術を用いて列車の動力制御、室内設備、保守点検などを一つのシステムとして統合・管理するもので、機能別に独立していた従来の制御系統・電気配線を大幅に簡素化し、製造コストの削減を達成した。また、各機器の自己診断機能や動作履歴の記録機能などによる車両の点検作業の自動化・迅速化など点検・保守作業の簡略化も同時に実現している。
空調装置には集中式のAU725形(系列)の能力 48.84 kW (42,000 kcal/h) または能力向上を図ったAU726形(系列)の 58.14 kW (50,000 kcal/h) を各車に搭載している(近郊タイプのグリーン車を除く)。この空調装置は年間を通してTIMSによる全自動空調制御(暖房器・送風機の制御を含む)を採用した新開発のものである。これはTIMS内のカレンダー機能による季節認識機能や室内外の温度や湿度・乗車率等から判断して「冷房・暖房・除湿・送風モード」から自動選択し、ファジィ制御により各車両毎に最適制御するものである。
AU725形を搭載するのは基本的に初期に製造された車両が該当し、0番台中央・総武緩行線用の4扉車全車(後のB80 - 82編成も同様)、0番台常磐快速線・成田線用、500番台1次車の4扉車と初期の近郊タイプとなっている。ただし、0番台中央・総武緩行線および500番台でもドア開口部の大きい6扉車は能力向上形のAU726形を搭載している。その後、500番台2次車以降に製造した車両や800番台、国府津車両センター向け新製投入以降の近郊タイプでは近年のヒートアイランド現象などの気象状況を考慮して全車両が能力向上形のAU726形を搭載している。
車体設備
本系列は、車体形状や装備の違いにより通勤タイプと近郊タイプの2つに大別できる。基本設計は共通であり、量産効果による車両製造コストの低減を図っている。
車体は軽量ステンレス製で、前面部にはFRP(ガラス繊維強化プラスチック)製のカバーで覆う構造が用いられている。車体構造はE217系や209系500番台に準じたものであり、近郊タイプだけでなく、通勤タイプにも 2,950 mm の拡幅車体を採用している。ただし、例外として800番台は東京地下鉄線内の車両限界の関係から 2,800 mm 幅である。また、床面高さはレール面から 1,165 mm に低減され、さらに靴擦り(クツズリ)部分を傾斜させ、先端部の高さを 1,150 mm とした(900番台は 1,180 mm で、傾斜もない)。これにより、ホーム (1,100 mm) との段差解消と低重心化が図られている。E217系から採用された運転室構体への衝撃吸収構造を本形式も採用している。
車体諸特性
項目 特性
心皿間距離 13,800mm
片側出入口個数 4扉
相当曲げ剛性 5.8×1014(N・mm2)
相当ねじり剛性 176.9×1012(N・m2/rad)
曲げ固有振動数 構体12.7Hz
ねじり固有振動数 構体3.0Hz
主材料 SUS301L、SUS304
構体質量 M車5.1 t、T車4.8 t
車体形状は、製造した車両メーカーにより細部に差異が生じている。これは各車両メーカーが得意とする加工方法で車両の製造を行えるように若干の仕様の相違を許容しているためで、前述の量産効果に加えて車両製造コストの低減に寄与している。具体的には、近郊タイプおよび800番台では車体妻面部の処理・縦雨樋の形状・ドア横の柱の処理・内装の素材などが異なっている(下写真参照)。また、長期間にわたって製造が行われたため、同一のタイプ・番台においても製造時期により細かな仕様の変更(各車両連結部分への貫通扉の設置、傾斜式戸閉機構の採用、7人かけ座席間枕木方向へのつり革増設、火災対策としての天井整風板の素材変更など)が行われている。
車外妻面形状は東急・新津製は補強ビードがなく、フラットとなっており、縦雨樋は丸管である。また、屋根と妻面の接合部には段差がある。一方、川重製は横方向に補強ビードがあり、縦雨樋形状は角管である。また、屋根と妻面の接合部はフラットとなっている。
車内ドア周囲形状は東急・新津製はドア横にステンレス部材が使用され、ドア上部の点検フタはFRP成形品となっている。また、荷棚下に化粧板の継ぎ目(赤矢印)がある。一方、川重製はドア横には天井まで一体成形のFRPパネル材が使用され、ドア上部の点検フタは出っ張らない形状となっている。また、一体成形品のために化粧板のような継ぎ目はない。
全車両に前面排障器(スカート)が設置されているが、2005年度以降の新津車両製作所製の一部編成から踏切事故などの被害を軽減するためV字型で尖がっている強化型のものに変更された。なお、2007年夏頃から500番台や初期の近郊タイプなどの標準スカートを搭載する編成も、新津車両製作所]製の一部編成に使用されていた大型スカート(強化型)に変更する改造が始まっている(。
側窓は209系500番台(本系列900番台落成時はこの仕様)と異なり、先頭車後位寄りを除く各ドア間にある窓ガラスは全て開閉可能な下降窓と固定窓の組み合わせとなっている。これは停電が発生した際など非常時における車内換気を考慮したものである。窓ガラスには可視光線、日射熱線、紫外線の透過率が低く(可視光透過率44%・日射熱線76%カット・紫外線96%カット)、乗用車でも採用が進んでいる汎用性の高いグリーン色の熱線吸収ガラス(UVカット)を採用している。このため、車内の側窓カーテンの設置は省略している。
車内設備・放送
車内は内板を白色系とし、床敷物には灰色を、座席表地は青色系を使用している(座席表地は500番台を除く)。ただし、優先席部では赤色の斜めストライプ柄の表地を使用している。座席構造は側構体で支持する片持ち式ロングシート/セミクロスシートを採用している。座席本体はリサイクル性にも配慮して、座席クッション素材にポリエステル樹脂成形品を使用し、表地の張り替えを容易にしている。その後、2001年(平成13年)3月以降の増備車では座り心地の改善のため、クッションの改良などを実施している。
車内では使いやすさも考慮して0番台からは荷棚と座席前のつり革高さを低下させている(209系500番台では荷棚は 1,770 mm から 1,730 mm に、つり革は 1,700 mm から 1,680 mm になった)。また、各先頭車の連結面側には車椅子スペースを設置している(800番台を除く)。連結面間の貫通扉は基本的に各電動車 (M - M') ユニット(モハ231形 - モハ230形)の両端に設置されている。ただし、火災対策基準の省令変更後に増備した車両では、省令に沿って傾斜式による自動閉機構付きの貫通扉が各車両片側に配置されている。他系列と同様に優先席付近のつり革は2008年春までにE233系と同じ形状のオレンジ色のものへ交換した。
209系・E217系・E501系などと同様のドアチャイムを採用しているほか、車内案内設備としてLED式車内案内表示器(500番台は液晶ディスプレイを用いたトレインチャンネル)によって各種情報を表示している。LED式の場合、1段タイプと2段タイプの2タイプが存在するが、共通点として次駅案内が表示され、漢字→ローマ字→カタカナの順に表示される。一部の車両では旅客への案内向上のため、VIS と称する情報提供装置を搭載している。
2段タイプのものは上段に行先・次駅案内・出口案内などを表示し、下段は所要時間表示・乗り換え案内・ニュース・運行情報などを表示する。また新たな列車運行情報が入電した時はアラート音が鳴る。非常ブレーキ取扱時にはディスプレイに「急停車します」と赤字で表示される。
乗務員室
乗務員室は基本的に209系で採用したユニット構造の運転台としている。主幹制御器は東芝製の左手操作式ワンハンドルマスコンが採用されている。保安機器では緊急停止装置(EB装置)と緊急列車防護装置(TE装置)を標準装備している。各番台とも乗務員室内には異常時に、非常用ハシゴとしても使用可能な補助腰掛が設置されている。
0番台・500番台・800番台、近郊タイプの初期落成車ではアナログ計器式の速度計・圧力計・各種表示灯類を配置し、TIMSモニターは1画面を設けている。また、情報提供装置 (VIS) を搭載する常磐快速線用0番台および500番台では将来の情報量の増加を考慮して計器盤右側にTIMS第2モニター画面の準備工事がされている。
その後の東海道線向け以降の近郊タイプでは見やすさや機能性、コストダウン等のため、速度計・圧力計・各種表示灯類を液晶モニター画面 (LCD) に集約したグラスコックピット方式に変更した。この方式の場合、液晶モニターは3画面が用意され、左からNo.1メータ表示器、TIMS表示器、No.2メータ表示器とされ、1画面が故障しても相互にバックアップが出来るなど冗長性も確保されている。乗務員室背面仕切壁は、運転席背後に非常救出口を、中央に遮光幕付きの大窓、助手席側に仕切扉窓を配置するものである。また、途中の増備車から大窓部の下に埋め込み形の手すりが設置されている。
形式
クハE231形 (Tc)
普通席を備える奇数向き制御車。運転台を備える。
500番台
山手線用E231系500番台 (2017年8月21日 / 秋葉原)
山手線用E231系500番台
(2017年8月21日 / 秋葉原)
基本情報
製造所 新津車両製作所
製造年 2002年 - 2005年
製造数 52編成572両
運用開始 2002年4月21日
投入先 山手線、中央・総武緩行線
主要諸元
編成 山手線:11両編成 (6M5T)
中央総武:10両編成 (6M4T)
最高速度 120 km/h
起動加速度 3.0 km/h/s
減速度(常用) 4.2 km/h/s
車両定員 先頭車:147(座席43)名
中間車:162(座席54)名
4600番台中間車:160(座席52)名
600番台中間車:160(座席54)名
6扉車(廃車済):162(座席30)名
6扉車座席収納時:160(座席0)名
車体長 19,500 mm
車体幅 2,950 mm
床面高さ 1,165 mm
制御方式 IGBT素子VVVFインバータ制御
保安装置 山手線:ATC-6(登場時)、D-ATC
中央総武:ATS-P