観光用車両「ひえい」(叡山電鉄700系電車)
京阪グループの経営戦略のひとつに位置付けられた比叡山・琵琶湖を周遊する観光ルートの活性化の一環として、新たな観光用車両が叡山本線に導入することが構想された。当初はパノラマ車両とすることも検討されたが、すでに900系「きらら」があることから、特徴ある別のコンセプトとして、比叡山、鞍馬山のもつ神秘的なイメージが楕円をモチーフした意匠で内外装に再現された。導入から30年が経過し、改修の時期に達している700系のうち732号車を、これに乗ってみたいという魅力あるコンテンツづくりの一環として改造、デザインはGKデザイン総研広島、工事は川崎重工業が担当、「ひえい」の愛称がつけられた。2018年度グッドデザイン賞、2019年(令和元年)鉄道友の会「ローレル賞」を受賞した。
外観
正面に大きな楕円形のリングが設けられ、視界を確保するため運転席が300 mm車体中央寄りに移設されている。視界の確認のため、窓ガラスの実物大模型を他車両にとりつけた検証も行われた。前照灯は窓の上下に1つずつLED式のものが、尾灯は窓の下に楕円のリングに沿ってLED式のものが配置された。2つの前照灯は比叡山と鞍馬山を表している。連結運転を行う場合、前面のリングの下部が取り外せるようになっている。
側窓は楕円形の固定窓となり、車体中央部には床まで達する大型窓が設けられた。車体外部は深緑色に塗装され、比叡山の山霧をイメージした金色のストライプが窓下に入れられた。客用扉の窓も大型の楕円形のものになった。戸袋部には大地から放出される気のパワーと灯火を抽象化したシンボルマークが描かれた。
内装
内装を継ぎ目が目立たないフラットな仕上げとするため、壁厚さは改造前より約30 mm厚くなった。壁は緑系の色調で、内幅が狭くなる分、座席形状を工夫し、乗客が足を投げ出しにくい構造が採用された。
車体中央部分には立ち席スペースがあり、乗客が寄りかかれるよう壁に背あてが取り付けられた。座席は1人あたりの幅525 mm、奥行き560 mm、角度15度のバケットタイプとなり、側柱を利用したヘッドレストが設けられている。座席表布は黄色系で、神秘的な力・気、御山の等高線、歴史の積層をイメージした模様が入れられた。
座席端部には衝突時などに乗客を保護するための大型の袖仕切りがあり、楕円形のスタンションポールが袖仕切りに取り付けられている。八瀬寄り扉脇には車椅子スペースがあり、折り畳み式の座席が設置された。一部座席は優先席となり、ヘッドレストの色を茶系とすることで識別されている。
天井は大型の整風板を設けたすっきりとしたもので、LED式のダウンライトが設けられている。
ひえい
基本情報
運用者 叡山電鉄
種車 デオ732
改造所 川崎重工業
改造年 2018年
改造数 1両
運用開始 2018年3月21日
主要諸元
車両定員 85人
座席定員30人
(跳上椅子使用時は32人)
車両重量 37.0 t
全長 15,700 mm
車体長 15,200 mm
全幅 2,690 mm
車体幅 2,600 mm
全高 4,158 mm
車体高 3,658 mm
床面高さ 1,168 mm
台車 KW-31
車輪径 860 mm
固定軸距 2,100 mm
台車中心間距離 10,200 mm
主電動機 TDK-8120-A1
主電動機出力 130 kW
駆動方式 中空軸平行カルダン駆動
歯車比 5.25