東急2020系電車(6020系)
東急2020系電車(とうきゅう2020けいでんしゃ)は、2018年3月28日に営業運転を開始した東京急行電鉄(現: 東急株式会社)→東急電鉄の通勤形電車である。2020年に東京オリンピックが開催されることや、2022年に東急が創業100年を迎えることから、沿線の街や駅と調和する車両とすることを目的に命名、導入されるものである。新形式車両としては、2002年から導入した5000系以来、16年ぶりとなる。製造は、総合車両製作所横浜事業所と、東急電鉄の車両としては初となる総合車両製作所新津事業所が担当している。
概要
デザインは、多摩田園都市などの「街づくり」を起源に持つ東急電鉄らしさを意識したものとしており、監修は東急線沿線の商業施設のデザインなどを手がけている丹青社が担当した。沿線の街や駅との親和性を高め、利用者に親しみを持ってもらうとともに、「これまでにない新しさを感じていただけるような外観、車内空間」を目指しており、コンセプトカラーに「INCUBATION WHITE」(美しい時代へ孵化していく色)を使用した。先頭車前面から車体側面上部にかけて、導入線区の路線カラーとともに配置されている。丸みのある先頭形状は、やわからみのある顔をイメージしたものである]。
車体
車体は、総合車両製作所の軽量ステンレス車体のブランドであるsustina(サスティナ)を採用しており、「sustina S24シリーズ」の、車体長20メートルの4ドアステンレス車として製造された。レーザー溶接の積極的な採用、骨組の軽量化などで、アルミ車体と同等の車体軽量化を図ったほか、車両外観の溶接痕を減らし、水密性の向上も図っている。オフセット衝突対策として、隅柱の一部に断面45度で切り取ったような位置に補強を追加しており、これにより、オフセット衝突時において、互いの車両に離反する力を発生させ、外板の剥離を防いで客室の損傷を軽減することができる。また前面衝突対策として、運転台前面に衝撃吸収用のハニカム材を配置して、先頭車と中間車の間に衝撃吸収緩衝器を組込むことにより、衝突エネルギーの吸収と生存区間の確保を図っている。客室扉のドア間隔はホームドアの開口範囲に合うように4,820 mmとしており、窓の構成は固定窓と下降窓の組み合わせとしている。
前頭部は鋼材の骨組みで構成し、これをFRP成形品で覆う構造としている。前照灯はLED照明を使用しており、前照灯は前面下部に4灯と、ハイビーム時は加えて前面上部に2灯の計6灯とし、夜間時での視認性の向上を図っている。先頭車の屋根上には、列車無線アンテナ(逆L型アンテナ)のほかに、INTEROSによる通信にも使用されるWiMAXアンテナを設置している。
内装
インテリアデザインは、東急沿線の風景をイメージした座席や照明も含めた車内全体のカラーコーディネートにこだわり、親しみやすさと心地よさを感じるデザインとしている。座席表地には龍村美術織物製のものが使用されている。
腰掛は、2013年以降に導入の5000系の一部車両で採用されたハイバック仕様のロングシートを採用している。車椅子とベビーカーの乗客が利用するフリースペースは各車両の車端部に1か所ずつ(2020系・6020系・3020系とも2号車は両車端部で、1両に2か所)設置しており、普通の乗客が利用できやすいように、側面の窓に2段の手すりと妻面に腰当を設置しているほか、車内の床敷物に車椅子マークとベビーカーマークを貼り付けしている。優先席は、先頭車は車端部のフリースペースの向かいに3席、各中間車はそれに加えてその反対側の車端部の両側にも6席設けており、側面から座席の袖仕切を介して妻面までに黄色の帯を付けることで、一般席と区別している。妻引戸の戸閉装置は5000系の重力式から、ゼンマイの力でゆっくりと戻る方式に変更している。また、防犯カメラを各車に2台ずつ設置している。
扉間座席中央の側窓上部と妻引戸上部にはデジタルサイネージ(液晶ディスプレイによる電子看板)を設置した。側窓上部のものは、21.5インチサイズの液晶モニターを横に3つ連続配置しており、3画面で一つの連続した画面のように使用することができる。また、扉鴨居部には17インチの車内案内表示器を設置しており、停車駅表示案内のほか、行先情報、ドアの開方向情報、乗り換え案内、乗車マナーなどについて表示する。ただし、大井町線用の6020系と目黒線用の3020系にはデジタルサイネージは設置されていない。客室扉の内側は、混雑時に扉が開く際に戸袋に荷物などが引き込まれるのを防止するため、素材に表面が滑りやすい素材を採用した。
枕木方向のつり手棒は側面天井部と接続をすることにより、ロールバーの補強構造を構成して、側面衝突に対する車両変形量の抑制を図っている。
天井の客室灯には40 W相当のLED照明を採用したほか、つり手棒の配置変更に合わせて配置の見直しを行い、従来より数を2灯ほど減少させている(中間車は22灯、先頭車は20灯)が、架線停電時に備えて蓄電池からの電力で点灯する予備灯を、中間車では11灯、先頭車は10灯へと増加させている。
2130F以降の編成では、かつて6扉車が組み込まれていた4、5、8号車ドア間の座席を7人掛けから6人掛けに減少させて立席スペースを増やしている。
主要機器
制御装置は、300系以来となる三菱電機製を採用し、SiC-MOSFETとSiC-SBDを組み合わせた、フルSiCパワーモジュールを用いた2レベル式VVVFインバータ制御装置(MAP-144-15V317形)を搭載しており、1台の制御装置で主電動機4台を制御する1C4M方式としている。高速度域まで多パルスのスイッチングを行うため、主電動機の損失を低減させて省エネルギー性能を向上させており、従来の8500系と比べて半分程度の電力で走行できるようになっている。制御装置・フィルタリアクトル・高速度遮断器は独立M方式を採用しているため、各電動車に搭載されているが、2020系の8号車のデハ2820 (M2A) と2号車のデハ2220 (M2B)、6020系の5号車のデハ6520 (M2A) と2号車のデハ6220 (M2B) は、高速度遮断器を2020系ではパンタグラフを搭載する9号車のデハ2920 (M1A) と3号車のデハ2320 (M1B) に、6020系では同じくパンタグラフを搭載する6号車のデハ6620 (M1A) と3号車のデハ6320 (M1B) に集約して、自車の分も含めて2台搭載している。
主電動機は、東芝製のTKM-18(東芝形式SEA-446)形全密閉外扇式三相かご形誘導電動機(定格電流108 A、定格周波数80 Hz、定格出力140 kW、定格回転数2,380 rpm)を採用しており、熱交換により冷却を行う方式であるため、メンテナンス頻度の低減が図られている。
制動方式は、回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ方式としており、INTEROSの編成ブレーキ力管理システムからのブレーキ指令により、編成全体で応荷重制御・電空協調制御・回生ブレーキを優先する遅れ込め制御を行うことで、省エネルギー運転と空気ブレーキの制輪子(ブレーキシュー)の摩耗量の低減が図られている。
また、常用ブレーキを従来の7段ステップ制御から8段ステップ制御とし、8段ステップは減速度を4.0 km/h/sとすることで、回生ブレーキが安定しない時や雨天時と降雪時などで安定した制動力が得られるようにしている。また、降雪時での減速度低下時のバックアップとして非常ブレーキ時の回生補足機能を新たに追加している。これは、従来の非常ブレーキ作動時には、すべて空気ブレーキで作動して回生ブレーキは使用されないが、この機能では、非常ブレーキ作動時には、INTEROSで減速度の演算を行い、一定の減速度低下が計測された場合には、回生ブレーキを補足で使用するものであり、降雪時でのさらなる安全性を図っている。
補助電源装置は、IGBT素子を使用した3レベル方式の富士電機製[9](CDA175形)静止形インバータ(SIV)であり、出力は三相交流440 V、260 kVAである。整流装置は補助電源装置とは別に搭載しており、出力は直流100 Vである。また各車に変圧器を搭載しており、出力は交流100 Vである。
電動空気圧縮機は、潤滑油の交換や給油が不要のドイツ・クノールブレムゼ製オイルフリーレシプロ式圧縮機を三相かご形誘導電動機で駆動させる[9](VV180-T形)。潤滑油を使用しないため外部のオイル排出や元空気タンク側へのオイル流出がなく、圧縮機出口の吐出量は1,750 ℓ /minである。
冷房装置は、三菱電機製CU7080形[9]冷房能力58.14 kW (50,000 kcal/h)を屋根上に1台搭載しており、予備暖房用の6.0 kWのヒータを内蔵している。また、天井部の横流ファン付近にパナソニックとJR東日本テクノロジーが共同開発した空気洗浄装置の「nanoe(ナノイー)」を設置している。東急電鉄の電車としては初めての設置となる。
集電装置は、東洋電機製造製で、5000系と同じ舟体を有したシングルアーム式だが、すり板検知装置を装備している(形式はPT7108-E形)。
戸閉装置は、富士電機製のラック・アンド・ピニオン式のブラシレスモーターを使用した電気式戸閉装置を採用している。戸閉状態では、常に互いの引戸が押し付け合う構造となっており、従来の電気式戸閉装置のように機械的なロックをかける必要がなく、挟まれたものを引き抜きやすい特性がある。
蓄電池は、5000系と同じく焼結式のアルカリ蓄電池を採用している。5000系が直流100 V・60 Ahと列車無線の非常電源に使用する直流24 V・30 Ahの2種類を搭載していたのに対し、本形式は直流100 V・105 Ahの1種類のみとしている。
情報管理装置
列車情報管理装置として、東日本旅客鉄道のE235系等で実績があるINTEROSを採用している。データ通信速度を従来と比べて40倍も向上させたことで、大容量のデータを扱うことが可能で、車両の各機器への伝送のほかにWiMAXによるデータ通信を利用して、車両の各種データを地上システムにリアルタイムに送信して活用することが可能としている。将来的には、各機器のデータを利用して、車両留置時で実施する検査の簡略化や蓄積した車両のビッグデータを分析し、機器の寿命や故障の予知を捉えて適切な時期に必要なメンテナンスを行う状態保全に向けた取組みを進める予定である。
台車
台車は5000・6000系と同じく、軸箱支持装置が軸梁式のボルスタレス方式空気ばね台車のTS-1041動力台車、TS-1042・TS-1042A付随台車を採用しているが、台車の牽引力を車体に伝達するけん引装置はZリンク式から一本リンク式に変更されている。基礎ブレーキ装置は、踏面片押し式のユニットブレーキであるが、付随台車はディスクブレーキが追加されている。なおこのディスクブレーキのライニングは脱着性向上を図るため、UIC(国際鉄道連合)規格に基づいた構造としている。
駆動装置は5000・6000系と同じく中実軸平行カルダン式だが、電動機の電機子軸と輪軸の歯車駆動軸との間の継手を、CFRP製のたわみ板を使用したTD継手式から、東急としては初採用となる歯車形たわみ軸継手を使用したWN継手式に変更し、高速走行時の信頼性向上を図っている。
6020系は、2020系を大井町線向けに7両編成とした車両。大井町線は6両編成が最長であったが、輸送力増強を目的に2017年以降急行列車を順次7両編成にすることとなった。これに対応する車両として6000系の増結(中間電動車の新製)と合わせて新製投入されたものである。
主要な仕様そのものは2020系と同一であるが、大井町線で運用されている情報伝送装置による駅通過防止装機能と工事区間などで使用される臨時速度制限用のATCコードに変更できる臨時速度制限機能を有している。車内液晶モニターの設置数が少ないため、2020系よりも車両重量がやや軽くなっている。
デュアルシートのメーカーは京王5000系と同じくコイト電工製となっている。
運用
2017年度は2編成が新製され、2020系と同じく2018年3月28日に営業運転を開始した。
2018年度には6020系7両編成の1両にロングシート・クロスシートの両方に転換可能なタイプの座席(いわゆる「デュアルシート」)を導入し、平日夜の下り急行列車(大井町駅発田園都市線直通長津田駅行き)5本程度にて有料座席指定サービス(愛称『Qシート』)を行うことが発表され12月14日に運転を開始している。これにより2代目となるデハ6320形を組み込]、初代のデハ6320形は9両編成で落成した田園都市線の2020系に編入し改番の上で移されることとなる。改番に伴い、車内に液晶ディスプレイの増設を行っている。
2018年11月10日に『Qシート』に充当されるデュアルシート仕様の(新)デハ6320車両が報道公開された。車体は他車両と異なりオレンジ一色にラッピングされており、一見して判るようになっている。大井町駅と自由が丘駅の駅構造を考慮した結果、乗客の流れを阻害しにくい3号車に設定された。内装は天井のLED照明を電球色に変えることが可能で、各座席には電源コンセント(Qシート運用時にのみ使用可能)とカップホルダーを備え、車内Wi-Fi設備も用意されている。
なお、2019新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年4月27日からは『Qシート』サービスを当面の間休止していたが、10月12日より再開した。ただし、21時以降の列車は引き続き休止となる。
東急6020系電車
基本情報
運用者 東京急行電鉄
東急電鉄
製造所 総合車両製作所
横浜事業所・新津事業所
製造年 2017年 - 2019年
運用開始 2018年3月28日
投入先 大井町線・田園都市線
主要諸元
編成 7両編成
軌間 1,067 mm
電気方式 直流1500 V(架空電車線方式)
保安装置 ATC-P
備考
^ Qシート車以外
^ Qシート車