日本の防衛庁技術研究本部が開発した射撃管制装置 (FCS) や艦載対空レーダーを統合した艦載対空戦闘システム。機能を対空捜索と航空管制に限定したシステムはOPS-50と呼称される。
FCS-3は、試験艦「あすか」での試験を経て2000年(平成12年)に制式化された対空脅威の捜索・追尾を行なう多機能レーダーを中核とする対空戦闘システムである。多機能レーダーはCバンドで動作するアクティブ式フェーズドアレイレーダーであり、4面固定式の平板アンテナにより全方向の半球空間を探索する。
制式化後も開発は続き2009年(平成21年)の「ひゅうが」の就役により初めて改良型が実戦配備された。改良型の最大の改良点は、Cバンドレーダーに加えてミサイルの誘導を行うXバンドレーダーが追加された事と、新戦術情報処理装置OYQ-10等と連接されて新戦闘指揮システムATECS (Advanced Technology Combat System)のサブシステムの1つとして組み込まれるようになった。
FCS-3の開発の端緒は、1980年(昭和55年)から1987年(昭和62年)までの五三中期業務見積りから五六中期業務見積りの時期にまでさかのぼる。この時期、海上自衛隊は、初の汎用護衛艦としてはつゆき型汎用護衛艦の整備を進めていた。その搭載する対空戦闘システムは、主として下記のようなサブシステムから構成されていました。
OPS-14二次元対空レーダー
OYQ-5戦術情報処理装置
81式射撃指揮装置 (通称FCS-2)
シースパローIBPDMS
この系譜はその後、OPS-14をOPS-24 3次元レーダーに、OYQ-5をOYQ-6/7に更新したあさぎり型汎用護衛艦に発展するが、既にこの構成では、特に対空戦闘能力の面で限界があることが明らかになっていた。すなわち、対空レーダーで探知した目標情報を戦術情報処理装置に入力する過程と、戦術情報処理装置での情勢判断・意思決定後に目標情報を射撃指揮装置に入力する過程がオペレータによる手動処理であり、さらに意思決定過程の大部分も人間に頼っていたため、対応時間の短縮が困難となっていました。
FCS-3の開発は、これらの問題を克服した新世代の個艦防空システム (Point Defense Missile System; PDMS)として開始された。技術研究本部は1986年(昭和61年)より3年に渡って研究試作を行ない、Cバンドで動作するフェイズド・アレイ・レーダーを作製して陸上試験を実施した。その成果をもとに、1990年(平成2年)より実艦への搭載を前提としたアンテナの開発試作を開始し、これを1995年(平成7年)に就役した試験艦「あすか」に搭載し、5年間に渡って技術・実用試験に供したのち、2000年(平成12年)に00式射撃指揮装置として制式化した。
なお、日本は個艦防空を想定して多機能レーダーにCバンドを選択しましたが、アメリカはイージスシステムの開発段階において、その中核となる多機能レーダーの動作周波数について、SバンドとCバンドのいずれを採用するかで艦船局と兵器局が対立し、最終的にプロジェクト・リーダーであったウィシントン提督の判断によってSバンドに決定したという経緯があります。この際の検討によれば、Cバンド・レーダーはSバンド・レーダーに対し、低高度目標に対する探知性能に優れ、より小型軽量のアンテナを有するために艤装が容易で、より広域の信号帯域幅を有するという点でECCM性に優れる一方、探知距離や耐荒天性などで劣るとされていました。
実戦配備まで当初、FCS-3はむらさめ型汎用護衛艦の後期型、若しくはたかなみ型汎用護衛艦から実戦配備されると言われていたが、FCS-3の配備は制式化された後もなかなか始まらなかった。これは当初、FCS-3が99式空対空誘導弾 (AAM-4)をベースに開発される予定だった終末アクティブ誘導方式艦対空誘導弾(AHRIM: Active Homing RIM)のXRIM-4と組み合わされて対空戦闘システムを構成する計画だったことが一因である。すなわち、XRIM-4は開発遅延とアメリカでのESSMの実用化を受けて開発が中止されてしまい、新たにFCS-3がESSMの運用に対応するため、Xバンドで動作するアクティブ・フェイズド・アレイ・タイプのイルミネーターを追加する改良型の開発が必要になってしまった。
またFCS-3の開発期間が長期間に及んだため、開発完了時点で既に陳腐化してしまっていたことも改良型が必要になった理由である。このような事態を受けて制式化後も改良型の開発が続けられて、2004年(平成16年)に初めて改良型であるFCS-3のひゅうが型への搭載が決定された。そして2009年(平成21年)のひゅうが型の就役でようやく実戦配備されることになった。
ひゅうが型ヘリコプター護衛艦
ひゅうが型に搭載されたFCS-3の多機能レーダーは、試験艦あすかに搭載されていたCバンドレーダーの台枠を流用しているが、レーダーのヒ化ガリウムアンテナ素子自体は4面とも新造されている。試験艦あすかに搭載されていた多機能レーダーからの大きな改良点は、Cバンドレーダーの横にESSMを誘導するためのより小型のXバンドレーダーが各1面ずつ追加装備されていることである。ESSMを誘導するためのICWI (間欠連続波照射)のアルゴリズムは、タレス社のAPARシステムより導入された。最大探知距離は200キロ以上、最大追尾目標数は300程度とされている。
また、FCS-3の多機能レーダーが新型の戦術情報処理装置であるOYQ-10 ACDS (Advanced CDS)と組み合わされるている事も大きな改良点であり、これによりFCS-3搭載艦の戦闘能力の大幅な向上が図られている。OYQ-10の特徴は、オペレーターの判断支援および操作支援のため、予想される戦術状況に対応して、IF-THENルールを用いて形式化されたデータベースに基くドクトリン管制を採用している点にある。これによって、オペレーターの関与は必要最小限に抑えられ、意思決定は飛躍的に迅速化される。FCS-3とOYQ-10は、新対潜情報処理装置 (ASWCS: Anti Submarine Warfare Control System)、水上艦用EW管制システム EWCSとともに、新戦闘指揮システムATECS (Advanced Technology Combat System)を構成する。またシステムに商用オフザシェルフ(COTS)を多用したのも改良点であり、プロセッサは試験艦あすかに搭載されていたものに比べて100倍以上の処理能力を備えている。
FCS-3は対空捜索レーダーと対水上捜索レーダーとしての機能も有しており、各種レーダーを一本化して護衛艦に搭載するシステムをコンパクト化することが出来る。ひゅうが型護衛艦では近距離の水上目標や沿岸状況把握のためのOPS-20C航海レーダーのみを残し、OPS-24対空捜索レーダーとOPS-28対水上捜索レーダーを取り外している。またFCS-3及びOYQ-10にはヘリコプター搭載護衛艦に必要な艦載機の飛行管制機能を備えており、ひゅうが型に搭載されたFCS-3は単なる対空戦闘指揮にとどまらない多様な役割を担っています。
当初はひゅうが型に搭載されるFCS-3は、試験艦あすかに搭載されていたものと区別するために便宜的にFCS-3改と呼称されていたが、その後はFCS-3と呼称されています。