巡視船「くにさき」はくにがみ型巡視船です。
くにがみ型巡視船海上保安庁の巡視船の船級。区分上はPL(Patrol vessel Large)型、公称船型は1,000トン型。(実際には約1700トンある。広報等配布資料は約1500トン) 配置替えに伴ってネームシップが改名したことから、くにさき型とも呼ばれる。
しれとこ型以来、1,000トン型巡視船は代々、比較的低速の排水量型船型を採用してきた。しかし不審船事案や尖閣諸島問題対処の必要から、平成14・15年度では高速高機能大型巡視船(あそ型)、平成17年度以降は拠点機能強化型巡視船(はてるま型)と、いずれも警備能力を重視した滑走船型の高速船が建造された。
しかしこれらの高速巡視船は、高速航行時の運動性は優れていたものの、特にフィンスタビライザーの効果が落ちる低速・停船時の動揺が大きく、また船殻軽量化のため船型を切り詰めたために、船内容積や航続力の面で妥協した部分も多かった。一方、最初の1,000トン型巡視船であるしれとこ型は、昭和52年度補正計画より建造されたことから、2010年代において大量退役が予想され、代替が必要となっていたが、これらはいずれも汎用型であり、警備機能特化では不足が懸念されるようになっていた。このことから、平成21年度補正計画では、速力の要求を緩和した汎用型の巡視船2隻が建造されることになった。これが本型である。
これら2隻は1隻の建造費が74億円と高騰したことから、翌年度以降は、スペックダウンによって価格低減を図ったいわみ型に移行した。しかし2013年1月に、尖閣諸島の警備に専従する部隊の創設が決定されると、この任務にはいわみ型では機能的に不足であると判断されたことから、本型の建造を再開してこれに充当することとなった。平成24年度予備費および補正計画、更に平成25年度補正計画で、計16隻が追加建造される計画となった。この建造再開後の建造費は57億円まで低減された。
設計:本型は、船型は排水量型、船質は鋼(主船体は高張力鋼および軟鋼、上部構造物はアルミニウム合金)と、いずれも従来の方式に回帰している。また低速航行時の安定性改善のため、減揺装置としては、フィンスタビライザー1組とともに、上部構造物後方に減揺タンク(ART)を備えている。これらの施策により、乗員の負担は大幅に軽減された。なお船尾甲板は発着甲板(ヘリコプター甲板)とされており、ヘリコプターに対して電源や燃料を供給できる。
同世代の巡視船と同様に指揮機能の集約を図っており、船橋に機関管制盤2基を配置したほか、操舵室の後方にはOIC(Operation Information Center)室が配置され、通信区画や武器管制区画が設けられている。なお窓は防弾ガラス、囲壁も防弾仕様とされている。また操舵室の下には電気機器室(OAフロア)も設けられた。
主機関は、強力なV型12気筒ディーゼルエンジンを2基搭載しており、機種としては、PLHでも採用実績のあるSEMT ピルスティク社製12PC2-6V型(6,600 kW/8,900 hp)と考えられている。推進器は、やはり従来の方式に回帰して、スクリュープロペラが採用された。速力の要求は緩和されたとはいえ、それでも23ノットの速力は確保された。なお、高速高機能大型巡視船やはてるま型で不評だった舷側排気は廃止され、従来通りの煙突が復活している。
装備:主兵装は、赤外線捜索監視装置との連接によって目標追尾型遠隔操縦機能(RFS)を備えたJM61-RFS 20mm多銃身機銃とされた。また平成25年度補正計画で、尖閣専従部隊とは別枠の老朽更新用として整備される分(13番船以降)では、はてるま型と同様に、より本格的な射撃管制機能(FCS)を備えたブッシュマスターII 30mm単装機銃を搭載する予定である。また操舵室上には、これらの射撃指揮用に用いられる赤外線捜索監視装置とともに、遠隔監視採証装置も設置されている。
はてるま型と同様の高圧放水銃も搭載された。これは消防船「ひりゆう」が船橋上に装備しているものをもとに多少圧力を高めて使用しており、放水能力は毎分2万リットルに達する。消火用とともに非致死性兵器としての性格もある。
搭載艇としては、煙突の右舷側には高速警備救難艇を、左舷側と後方には複合艇を、それぞれ1隻ずつ搭載した。はてるま型では搭載艇を増やす必要から複合艇のみを積んでいたが、高速警備救難艇は複合艇よりも速度は劣るものの、救難用途の場合はかえって優れている場合もあることから、本型では高速警備救難艇も復活することになった。PL01「おき」及び02「えりも」においては救難仕様として小改正が実施されており、救難資器材庫が設置されているため、複合艇は1艇の搭載となる。
配備:平成21年度補正予算で2隻の建造予算が計上されたが、汎用性の追及により建造費が高騰したため、平成22年度補正予算、平成23年度予算、23年度第3次補正予算では、より安価ないわみ型の建造予算が6隻分計上された。当初は平成25年度予算概算要求でもいわみ型4隻が計上されていたが、尖閣諸島国有化以降の尖閣諸島海域における事態の緊迫化と領海侵犯の多発を受けて取り消され、平成24年度予備費で本型4隻、平成24年度補正予算で本型6隻の建造予算が計上された。さらに平成25年度補正予算でも6隻(標準型4隻、救難強化仕様2隻)の新規建造と、平成24年度予備措置船2隻の建造前倒しが認められている。
2016年2月24日のPL-89「あぐに」とPL-90「いぜな」の就役をもって、つがる型2隻と石垣港を拠点とする本型10隻の計12隻の尖閣領海警備専従体制が完成した。本型のうち6隻で複数クルー制を採用し、他船と合わせ12隻分の稼働率を確保し、大型巡視船14隻相当の勢力となる。
なお海上保安庁では船艇の番号について明確な規程がないことから、初期建造船と尖閣専従部隊向け、老朽更新向けとで、同型船の番号が3度も大きく飛ぶという異例の措置になっている。
計画年度:平成21年度
補正計画:番号PL-09
船名:(配属替えに伴い「くにさき」に改名)くにさき
建造:三菱重工業 下関造船所
所属:中城(第十一管区):転属:門司(第七管区)
基本情報
種別 1,000トン型PL
運用者 海上保安庁
就役期間 2012年 - 現在
前級 はてるま型
次級 いわみ型
要目
総トン数 1,700トン
全長 96.6メートル (317 ft)
全幅 11.5メートル (38 ft)
深さ 5.2メートル (17 ft)
主機関 ディーゼルエンジン×2基
推進器 スクリュープロペラ×2軸
速力 25ノット以上
(公称では23ノット以上)
乗員 定員42名
兵装 20mm多銃身機銃×1基 (PL-09、10、81~90)
30mm単装機銃×1基 (PL-11~)
搭載機 ヘリコプター甲板あり、ハンガーなし
搭載艇 高速警備救難艇×1隻
高速複合警備艇×2隻(PL01及び02は1隻)
FCS RFS射撃指揮装置 (20mm機銃用)
レーダー 対水上捜索用、航海用
光学機器 遠隔監視採証装置
赤外線捜索監視装置 (RFS兼用)
その他 遠隔放水銃×1門
停船等表示装置