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「きぼう」宇宙実験棟(JAXA)

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きぼうは宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が開発した日本の宇宙実験棟で、国際宇宙ステーション (ISS) の一部。ISSでは最大の実験棟である。計画時の呼称はJEM(Japanese Experiment Module:日本実験棟)。エアロックやロボットアームを備え、ISSでは唯一、重量50キログラム程度までの超小型人工衛星を軌道投入できる機能を有し、JAXAが各国から衛星射出を受託している。


日本はアメリカ合衆国が冷戦末期の1980年代に、西側諸国の結束の象徴として、宇宙ステーション建設を主張した当初から参加を訴えており、計画自体は幾度の変遷を経たが、日本の立場・方針は変わらず一貫して参加を表明してきた。そのなかで日本は費用面だけでなく、構成するモジュールの建設にも意欲を示し、宇宙開発事業団(NASDA・当時)が製造・保有・運用を担当することとなった。

「きぼう」には日本国の主権が及ぶことから管制は全て日本で行うが、電力・廃熱・姿勢制御などの宇宙基地としての基本的なインフラをアメリカ側モジュールから提供されるため、対価として施設使用権の46.7パーセントをアメリカが保有している。また、カナダはカナダアーム2の提供により施設使用権の2.3パーセントを保有する。日本が保有する施設使用権は残りの51パーセントである。


1982年6月、ジェームス・ベッグスアメリカ航空宇宙局 (NASA) 長官から日本の中川一郎科学技術庁長官へ、初めて宇宙ステーション計画への参加要請が行われた。これを受けて8月、日本政府は宇宙開発委員会に宇宙基地計画特別部会を設置して検討を開始した。1985年5月には、NASAと科学技術庁の間で宇宙ステーション計画予備設計了解覚書が署名され、日本でも設計作業に着手した。

日本は実験モジュールを設置することで計画に参加することになった。このときの計画では、既に与圧部(現在の船内実験室)と曝露部(現在の船外実験プラットフォーム)、それぞれの補給部(船内保管室と船外パレット)とロボットアームからなる構成が示されており、現在のきぼうと概略的には違いはない。宇宙ステーションの全体計画が大きく変化する中で、これほど変更が加えられていないのは特異とも言え、各時代の完成予想図の中で日本の区画は容易に見出すことができる。

宇宙ステーションの全体設計は繰り返し見直され、時期も延期されてきたが、これはアメリカ側が一方的に行ったことで、日本側は従うしかなかった。日本が担当した部位は実験室であり、電力や生命維持などの宇宙ステーションの基幹部分に関しては参加を許されなかった。また、輸送はスペースシャトルに依存していた。日本には、アメリカに強く意見できるだけの影響力はなかったのである。


特に、1993年に行われた変更で、きぼうは大きな影響を受けた。それまでは宇宙ステーションの進行方向前側に居住モジュールとスペースシャトルのドッキング装置が、後側に日欧の実験モジュール(現在のきぼうとコロンバス)を設置する計画だったが、この変更で日欧のモジュール設置位置は進行方向前側に設定された。また、進行方向と平行に設置される予定だったものが、横向きに変更された。この場所はデブリの衝突を受ける可能性が高く、しかもモジュール側面を大きく晒すことになったため、きぼうはデブリシールドと呼ばれる外部装甲板の厚さを増すなどして強化された。

開発担当企業
三菱重工業 - 与圧部(船内実験室・船内保管室)
アイ・エイチ・アイ・エアロスペース - 曝露部(船外実験プラットフォーム・曝露パレット)・与圧部搭載ラック・実験装置等
川崎重工業 - エアロック・EF/PM結合機構[4]
NEC東芝スペースシステム - ロボットアーム、衛星間通信システム、管制制御装置 (JCP)、実験装置


「きぼう」は与圧部である船内実験室 (PM) と船内保管室 (ELM-PS)、曝露部の船外実験プラットフォーム (EF) と船外パレット (ELM-ES)、きぼう専用マニピュレーターのロボットアーム (JEM-RMS)、衛星間通信システム (ICS) といった6つの主要部位で構成されている。

船内実験室 (PM)
きぼうの中心となる部位。地上と同じ1気圧の空気が保たれ、飛行士はシャツ一枚で過ごせ、最大4名が同時搭乗できる。主に微小重力環境を利用した実験を行う。内部にはきぼう全体のシステムを管理・制御する装置や実験設備が備えられた23個のラックを設置できるよう設計されており、そのうち10個は実験ラックを予定している。船内と船外実験プラットフォームとの間で実験装置や交換用の機器などの出し入れに使うエアロックも装備されている(サイズが小さいため宇宙服を着た人間の出入りはできない)。これらを使用して、地球観測、材料の実験や製造、生命科学(宇宙医学・バイオなど)、通信などの実験が行われる。

形状 - 円筒形
直径(外径) - 4.4m
直径(内径) - 4.2m
全長 - 11.2m
乾燥重量 - 15.9t
搭乗員 - 通常2名、最大4名(時間制限あり)、居住設備は米国モジュールに依存
搭載ラック - 総数23台
システム機器用ラック - 11台
電力ラック - 2台設置し冗長構成にしている
情報管制ラック - 2台設置し冗長構成にしている
空調/熱制御ラック - 2台設置し冗長構成にしている
ロボットアーム制御ラック - ロボットアーム操作卓を収めたラック
ワークステーションラック - 音声端末装置、TVモニタ、警告・警報パネルなどを装備したラック
衛星間通信システムラック - 衛星間通信システム機器とHTV用のPROX装置を搭載したラック
保管ラック - 2台
実験ラック - 10台(予定)(2011年9月時点で、JAXA 4台、NASA 2台、冷凍・冷蔵庫ラック 2台を設置)
電力 - 直流120V・最大24kW
通信制御 - 32ビット計算機システム、高速データ伝送最大100Mbps
環境制御性能 - 温度:18.3~26.7度、湿度:25~70%
寿命 - 10年以上


船内保管室 (ELM-PS)
軌道上で保管庫として使用される部位。日本が打ち上げた初の有人施設となった。実験室同様に1気圧が保たれ、8台のラックを搭載できる。打ち上げ時に搭載していたラックは船内実験室打ち上げ後に移設され、その後は、保管スペースとして荷物の保管に使われている。

上部が斜めにカットされたような形状になっているが、ここには船外実験プラットフォームと同じ実験装置交換機構が1基設置されている。これはHTV到着時に、後述の船外パレットをここに仮置きして、HTVの曝露パレットを取り付ける場所を空けるために使用する計画であったが、その後船外パレットは地上に回収することになったため、このような使い方は必要なくなった。

当初計画では、この船内保管室はスペースシャトルを使用して、運用を終えたラックや試料などを地上に回収したり、新しいラックや実験材料をISSへ輸送することを考慮していた。しかし、シャトル運用がISS完成と同時に終了することになり、地上へは持ち帰らない方針になったため、スペースシャトルへの積み込みに必要な部品の一部(グラプルフィクスチャなど)は実機からは取り外された。

形状 - 円筒形
直径(外径) - 4.4m
直径(内径) - 4.2m
全長 - 4.2m
乾燥重量 - 4.2t(打ち上げ時8.4t)
搭載ラック - 8台
電力 - 直流120V・最大3kW
寿命 - 10年以上


船外実験プラットフォーム (EF)
微小重力・高真空の宇宙曝露環境を利用して、科学観測、天体観測、地球観測、通信、理工学実験、材料曝露実験などを行う多目的実験スペース。船外実験装置や衛星間通信装置を取り付けるための12箇所の結合部があり、ここに各実験装置を取り付けることで様々な実験が行える。なお、曝露実験装置の設置場所は米、露、欧州も有しているが、排熱用の冷却能力まで提供可能なのは「きぼう」の船外実験プラットフォームだけである。

EF先端(後方側)の結合部は、スペースシャトルで船外機器を輸送した「船外パレット」と、HTVで船外機器を輸送するための「曝露パレット」を取り付けるのに使われる。

形状 - 箱形
幅 - 5.0m
長さ - 5.2m
高さ - 3.8m
質量 - 4.1t
実験装置取付け場所 - 12箇所
システム機器用 - 2箇所
実験装置設置用 - 9箇所
実験装置仮置き用 - 1箇所
電力 - 直流120V・最大11kW
システム機器用 - 最大1kW
実験装置用 - 最大10kW
通信制御 - 16ビット計算機システム、データ伝送速度:最大100Mbps
環境制御性能 - なし

船外パレット (ELM-ES)
船外実験プラットフォームに取り付ける船外機器を3基取り付けて、スペースシャトルで輸送するためのパレット。船内保管室と同様に、シャトルによる複数回の利用を想定して設計され、機器の地上への回収も可能なように設計されたが、同様な理由で再使用はしない方針になった。

2J/Aミッションでは、船外実験装置2基 (MAXI, SEDA-AP) と衛星間通信システム (ICS-EF) を搭載し運搬した。これらの搭載機器はJEMRMSを使用して船外実験プラットフォームに移設され、船外パレットは空のままスペースシャトルのペイロードベイに戻されて、地球へ回収された。

形状 - フレーム型
幅 - 4.9m
長さ - 4.1m
高さ - 2.2m(実験装置を含む)
質量 - 1.2t(実験装置を含まない)
実験装置取付け場所 - 3箇所
実験装置2個+ORU 2~3個とすることも可能
電力 - 直流120V・最大1kW
環境制御性能 - なし

ロボットアーム (JEM-RMS)
実験や船体の保全作業支援に使用する実用ロボット(マニピュレーター)。全長10mの親アームと、親アームの先端に取り付けて使用する2.2mの子アームの二つと船内のアーム作業卓(RMSラック)からなる。アームはそれぞれ6つの関節を持ち、人間の腕と同じような動作が可能である。子アームはHTV初号機の与圧部に搭載して打ち上げられ、きぼう内で組み立てられた後、きぼうのエアロックを使って船外実験プラットフォームへ搬出され、所定の保管場所に収納された。JEM-RMSは地上からも遠隔操作で動かすことができる。2012年のHTV3号機からこの地上からの遠隔操作を本格使用する予定であり、そのための試験が2011年12月6日に行われた。

衛星間通信システム (ICS)
きぼうの運用を効率的に行うため、船外実験プラットフォームには直径約80cmのアンテナを持つICS-EFが2J/Aで設置された。これとJAXAのデータ中継衛星こだまを利用して、筑波宇宙センターとの間でデータ・画像・音声などの双方向通信が行われている。こだまが1機しかなく、連続通信は不可能であるため、管制には使用せず大容量の実験データ送受信等に使用する。通信速度は、地上へのダウンリンクが50Mbps、地上からのアップリンクが3Mbpsとなっており、きぼうから地上へのハイビジョン映像の送信にも使われている。


きぼうの運用と利用を主たる目的とした日本における国際宇宙ステーション計画の2010年までの総費用は約7,100億円で、その内訳は、きぼう開発費に約2,500億円、きぼう実験装置開発費に約450億円、HTV開発費(技術実証機の建造費含む)に約680億円、地上施設開発費と宇宙飛行士訓練費とシャトルによるきぼう打ち上げ費に約2,360億円、運用費(管制・保全など)と利用費(実験関連費)に約1,100億円である。なお、ここにはH-IIBの開発費と試験1号機の打ち上げ費は含まない。

2011年以後の1年毎の日本の国際宇宙ステーション計画費用は約400億円で、その内訳は、運用費(管制・保全・宇宙飛行士訓練など)に約90億円、利用費(実験関連費)に約40億円、物資輸送費(H-IIBによるHTV打ち上げ)に約250億円である。日本の宇宙開発費のうちJAXA独自の予算は毎年約1,800億円であることを考えると、毎年約400億円の支出となる国際宇宙ステーション計画費用は日本の宇宙開発予算の中で相当のウェイトを占めていると言える。


名称
「きぼう」という愛称は1999年に宇宙開発事業団(当時)が公募したものであり、この愛称を応募した総数は132人であった。宇宙開発事業団から組織改編された宇宙航空研究開発機構が、応募者名簿を2005年4月施行の個人情報保護法の下、誤った認識により破棄し、「きぼう」の命名者も一時不明になっていたが、後に再発見された。
展示モデル
日本実験棟「きぼう」の展示モデルは、JAXA筑波宇宙センターの展示館「スペースドーム」内に、内部にも入れる実物大模型が展示されているほか、名古屋市科学館の屋外展示スペースに実際に開発に使われた船内実験室の構造試験モデルが展示されている。

 

 


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