前照灯(ぜんしょうとう)とは、輸送機械の前部やヘルメットなどに搭載・装着し、操縦者の視認性と外部からの被視認性を向上させるために使われる照明装置。ヘッドランプ (headlamp)、ヘッドライト (headlight) とも言う。
鉄道車両の前照灯は、日本では法律的には前部標識という扱いであり、正式には「前灯」と称する。夜間および長大トンネル区間では点灯が義務付けられている。自動車と異なり車両の進行方向が一定であることから、あくまで「標識」としての位置づけてあり、光量については暗部において遠方より車両の存在が確認できる程度であれば問題ないことになっている。ただし近年は前照灯としての役割を強化するため光量を増やすだけでなく、車外からの視認性向上および自動車・歩行者への注意喚起のため、昼間であっても常時点灯することが多くなっている。
古くは油灯やカーバイドランプが使われており、電灯となってからもシングルフィラメントの時代が長かったため、光軸の切り替えが不可能であり、すれ違い時には減光で対応していた。ダブルフィラメントとなってからは、ハイビームとロービームを切り替えることが可能になった。HID式のように放電式灯の場合は輝点の切り替えができないため、電磁石などで機械的に光源か反射板を動かし、光軸を切り替えるようになっている。
1960年代以前に製造された車両の多くはランプ交換式の暗い白熱灯式の前照灯(当初は150W、後に250W)であったが、1970年代以降は後にシールドビーム化が進み光量のアップと長寿命化、交換の容易化が図られた。1990年代からプロジェクター式、2000年頃からHID式、2006年からは高輝度LEDを用いたものなどが出現するなど、バリエーションが増えている。
取り付け位置は車体の上部(運転者の視点より高い)にある場合と、下部(運転者の視点より低い)にある場合があり、各車種によってさまざまで、同じ鉄道事業者でも統一はされていない。運輸省令で「夜間の前部標識として前灯を上部に1個掲出する」と定められていたため、かつては上部に1個のみ取り付けられていた。私鉄では1957年10月、名古屋鉄道5200系電車が固定式前照灯三灯で登場。国鉄では東海道本線の電車特急「こだま」を運転するにあたり、新造された151系電車が前灯を腰部にも2灯増設して3個取り付けることになり、運輸大臣の特認を得た。その後前灯の2個以上の取り付けは標準的なものとなり、省令も改正された。関西の鉄道会社では上部にランプを配するスタイルが好まれる。また特急のように高速度を出す列車に用いられる車両には、照射性及び被視認性を高めるため3個以上のランプを装備する車両も存在する。