しんかいは海上保安庁が保有していた有人潜水調査艇。日本で初めて建造された本格的な有人深海調査艇である。
1969年、川崎重工業で建造された。建造に当たっては、旧日本海軍の潜水艦建造技術も参考にされたという。実用最高深度は600メートルである。
1970年に海上保安庁に引き渡され、本格的な稼働を開始した。本船は所属は海上保安庁であったが、実際の運用に当たっては科学技術庁(当時)が調整する形で各研究機関が共同利用するという方式を取っていた。この点は海洋研究開発機構で保有・運用を行う形の後継機「しんかい2000」・「しんかい6500」とは異なる。このため「しんかい」は海上保安庁が保有した唯一の潜水艇となっている。運用は母船の「乙女丸」に搭載され(乙女丸は民間からの傭船)、調査地点で着水・潜航する方式であった。
本船は日本近海で海底地形地質調査、漁場調査、荒天状態での海面下海象(海流、水温、塩分濃度、地場)などの海洋調査に従事し、多くの成果を上げた。しかし、本船と母船の「乙女丸」がともに老朽化したため、1977年1月に廃船となった。これに加え、日本の領海が3海里から12海里に広がってより調査範囲を広げる必要が出てきたため、後継機として「しんかい2000」が開発されることになり、「しんかい」が退役して4年後の1981年に就役している。
退役後は長らく広島県呉市の海上保安大学校に保存展示されてきたが、2005年に同じ呉市にオープンした呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)に隣接する敷地(屋外)に移され、保存展示されている。
小松左京原作の『日本沈没』(1973年公開の映画版)に登場する潜水艇「わだつみ」は、当時日本で唯一の深海調査艇だった本船をモデルとしている。ただし、「わだつみ」の潜航深度は1万メートル(設計上は10万メートル)と設定されている。
基本情報
船種 深海探査艇
船籍 日本の旗 日本
所有者 海上保安庁
建造所 川崎重工業神戸造船所
経歴
起工 1968年
進水 1970年
竣工 1970年
就航 1970年
処女航海 1970年
引退 1977年
最後 1976年
現況 呉市海事歴史科学館で保存
主要諸元
全長
16.52メートル
幅
5.53メートル
深さ
5メートル
喫水
4メートル
排水量
90.88トン
最大潜行深度
600メートル
速力
水中最大 2.24ノット、実用 1.5ノット
水上最大 2.35ノット
航続時間
水中最大速力にて 4.6 時間
水中実用速力にて 10 時間
曳航速度
5ノット
乗員数
4 名
空気清浄能力
48 時間