PL71「いわみ」は海上保安庁のいわみ型巡視船です。
いわみ型巡視船は、海上保安庁の巡視船の船級。分類上はPL(Patrol vessel Large)型、公称船型は1,000トン型。建造費用は56億円。
1970年代の海上保安庁は、昭和52年度補正計画から昭和55年度計画にかけて1,000トン型PL(しれとこ型)28隻を建造し、排他的経済水域の制定に伴う新海洋秩序時代の到来に対応できる勢力を確立した。これは大型巡視船としては異例の大規模整備であったが[7]、2000年代から2010年代にかけて相次いで耐用年数を迎えることから、更新が必要とされていた。
2000年代、1,000トン型PLとしては、平成14・15年度では高速高機能大型巡視船(あそ型)、平成17年度以降は拠点機能強化型巡視船(はてるま型)と、いずれも従来の系譜とは異なり、警備能力を重視した滑走船型の高速船が建造されており、特にはてるま型は、しれとこ型の代船としての量産も期待された。しかしこれらの高速巡視船は、高速航行時の運動性は優れていたものの、特にフィンスタビライザーの効果が落ちる低速・停船時の動揺が大きく、また船殻軽量化のため船型を切り詰めたために、船内容積や航続力の面で妥協した部分も多かった。一方のしれとこ型は汎用型として、警備・救難のいずれにも用いられていたことから、これらの警備型巡視船では代船として不安が残った。
このことから、平成21年度補正計画では、速力の要求を緩和した汎用型としてくにがみ型が建造された。しかし汎用性を求めた結果として、建造費が74億円(はてるま型の5割増)と高騰したことから、しれとこ型の代船としての量産は困難と考えられた。このことから、多少のスペックダウンとトレードオフで建造費低減を図ったのが本型である。
水線下形状は排水量型、船質は鋼と、いずれもくにがみ型と同様、従来の方式に回帰している。また船首にはバルバス・バウが付された。船型は全通船楼型(遮波甲板型)である。コスト低減のため航空運用能力が省かれているが、要救助者の移送や遭難船の曳航などの作業に備えて、船尾甲板は極力クリアにデザインされた。また航空運用能力の廃止に伴い、フィンスタビライザーも省かれたが、船橋構造物直後から煙突直後にかけてビルジキールが設置され、また在来船よりも幅広とされた[6]。
船橋の配置はくにがみ型と同様で、指揮機能の集約を図っており、船橋に機関管制盤2基を配置したほか、操舵室の後方にはOIC(Operation Information Center)室が配置され、通信区画や武器管制区画が設けられている。
コスト低減のため、くにがみ型よりも更に速力の要求が緩和されており、主機関の出力も抑えられている。推進器はスクリュープロペラである。出入港などに備えてバウスラスターを2基備えた。なお舷側排気ではなく煙突を備えているのはくにがみ型と同様だが、曳航時の後方視界確保のため、おじか型と同様に左右2本に分離する方式に改められた。なお本型では、行動不能に陥った大型タンカーなどの曳航を想定し、陸岸曳引力45トンという、極めて強力な曳航能力を備えている。
主兵装は、はてるま型と同様、赤外線捜索監視装置との連接によって射撃管制機能(FCS)を備えたブッシュマスターII 30mm機銃とされた。また操舵室上には、射撃指揮に用いられる赤外線捜索監視装置とともに、遠隔監視採証装置も設置されている。
なお、機銃の前方に高圧放水銃を備えるのは、はてるま型・くにがみ型と同様である。これは消防船「ひりゆう」が船橋上に装備しているものをもとに多少圧力を高めて使用しており、放水能力は毎分2万リットルに達する。消火用とともに非致死性兵器としての性格もある。
搭載艇としては、煙突の左舷側には高速警備救難艇を、右舷側と後方には複合艇を、それぞれ1隻ずつ搭載した。
また、平成23年度第3次補正計画分2隻(5・6番船)は災害対応能力強化型とされ、後に第1次補正計画分2隻(3・4番船)も同規格に設計変更された。これは東日本大震災に対する支援活動の教訓を踏まえたもので、造水装置の能力を強化するとともに、給水装置と給油装置、更に荷役用として大型の多目的クレーンを追加した。
PL-71
計画年度 平成22年度
船名 いわみ
建造 三菱重工業 下関造船所
竣工・転属 2013年(平成25年)9月27日
所属 浜田(第8管区)
種別 1,000トン型PL
運用者 海上保安庁
就役期間 2013年 -
前級 くにがみ型
要目
総トン数 約1,250トン
全長 92.0メートル (301.8 ft)
全幅 11.0メートル (36.1 ft)
深さ 5.0メートル (16.4 ft)
主機関 ディーゼルエンジン×2基
推進器 スクリュープロペラ×2軸
出力 8,000馬力
速力 21ノット以上
乗員 定員 42名、若しくは40名
実乗員 約30名
兵装 30mm単装機銃×1基
搭載艇 高速警備救難艇×1隻
高速複合警備艇×2隻
FCS FCS射撃指揮装置 (30mm機銃用)
レーダー 対水上捜索用、航海用
光学機器 遠隔監視採証装置
赤外線捜索監視装置 (FCS兼用)
その他 遠隔放水銃×1門
停船命令表示装置