P-1は、防衛省技術研究本部と川崎重工業が開発し、川崎重工業が製造、海上自衛隊が保有・運用する固定翼哨戒機である。ターボファンエンジン4発の中型機で、海上自衛隊がP-3Cの後継機として運用する。
2007年(平成19年)9月28日に初飛行した試作機の型式名称はXP-1であったが、2013年(平成25年)3月12日の開発完了の正式発表をもってP-1となった。最初の2機は、2013年3月29日に厚木基地に配備された。
2010年(平成22年)度以降にP-3Cの減数が始まることに合わせ、中期防衛力整備計画(平成17年度~21年度)で4機の導入が計画され、2008年(平成20年)度予算で初めて4機(量産1号機/通産3号機以降)分679億円の予算が計上された。単年度契約としては4機という比較的大量調達に至ったのは1機当たりの調達価格を低減させるために2年分を一括調達したことによるものである。
従来の海自の作戦用航空機全体の定数は13個隊170機(内、P-3Cは8個隊約80機)であったが、平成17年度以降に係る防衛計画の大綱では9個隊(内、P-3Cは4個隊)150機まで削減された。防衛省ではP-3Cを完全に置き換える方針であるが、P-3Cよりも航続距離・連続哨戒時間が向上したP-1の導入により、さらに少ない約70機で能力を維持できるとしている。
2011年、試験中に機体に数か所のひび割れが見つかり、同年度中であった配備予定が遅れていたが、2013年3月12日、防衛省よりP-1の開発完了と厚木基地へ最初の2機を配備することが発表された。
2013年3月26日、岐阜県各務原市の川崎重工業岐阜工場にて量産初号機の納入式が実施され、同月29日午後2時ごろに厚木基地に着陸した。この最初の2機は厚木基地配備となり、2年ほど飛行試験や搭乗員訓練などを行った後、警戒・監視任務に就く予定であるが、同年5月に、速度超過警報装置の作動を確認した後に急減速を行う飛行試験中に全部のエンジン(4基)が停止する不具合が発生したため、2機の飛行停止措置がとられた。この事実は同年6月20日に発表され、その原因と対策については同年9月27日に発表された。
哨戒機としては比較的珍しいターボファンエンジン4発の中型機で、P-3Cを若干大きくした程度である。ジェット機ならではの高速性を求めて、主翼・尾翼共に後退翼を備え、主翼は低翼配置、着陸装置の車輪は胴体と主翼の付け根に設置されており、4発であることを除けば、外観は一般的なジェット旅客機と変わらない。なお、これらの形状は1960年代末のPX-L検討で川崎が提案した機体の特徴(4発ジェット機)をいずれも引き継いでおり、川崎がP-3Cの生産中も国産哨戒機の構想を持ち続けていたことが窺える。この4発エンジンには2発エンジンより燃費面および整備コストでは不利になるが、島嶼哨戒地域への到達時間の短縮の必要性、哨戒機器の電源確保や、低高度飛行での騒音軽減・任務時の生存性向上がはかれる。
エンジンはIHIが製造するF7(試験機は XF7-10)が搭載される。このエンジンを含め、機体は全て国産技術となっている。機上整備システムおよび同システムの地上解析装置も川崎によって同時開発される。
操縦系統は、センサー類や精密電子機器との干渉を避ける為に、光ファイバーを使用したフライ・バイ・ライト (FBL) 方式で、海自において装備評価試験機UP-3Cで実験を繰り返したものである。FBLの採用は実用機としては世界初の試みであり、配線の軽量化、消費電力の低減もはかられる。
同時に開発されるXC-2輸送機とコックピット風防、主翼外翼(全体の半分)、水平尾翼、統合表示機、慣性航法装置、飛行制御計算機、補助動力装置 (APU)、衝突防止灯、脚揚降システムコントロールユニットを共通化し、機体重量比で約25パーセントが共通部品、搭載システムでは品目数で約75パーセントが共通の装備となっている。これによって開発費が250億円削減できたとしている。
飛行性能はP-3Cから大きく向上しており、巡航速度と上昇限度が約1.3倍、航続距離が約1.2倍になることにより、作戦空域到達時間の短縮、単位時間当たりの哨戒面積の向上が見込まれ、防衛省は機体数が削減されても哨戒能力が落ちることは無いとみている。
機体の配色は、試作1号機(5501)が白地に赤のストライプと胴体下面が灰色の、技本試作機の標準色だが、試作2号機および量産機では、低視認性を重視して全面青灰色迷彩(空自・C-130Hの海外展開用機に比較的似ている)が施される。
機体の開発・製造では、三菱が中胴と後胴、富士重工が主翼と垂直尾翼を担当し、日本飛行機も分担生産に参加している。システム面では、搭載レーダーは東芝、音響処理装置は日本電気、管制装置はシンフォニア テクノロジー、自己防御装置は三菱電機、空調装置は島津製作所、脚組み立ては住友精密工業など、国内大手企業が参加している。
ミッション用の機器類は機体の飛行試験と並行して開発される。技術研究本部では1990年代より固定翼・回転翼哨戒機用の電子機器を自主開発しており、XP-1装備品もこの延長にあるものになると思われる。米軍との相互運用性確保の為、米軍P-8Aとの共通性を持たせることが決定していたが、結局これは白紙還元され、日本独自開発のシステムを搭載する事になっている。
機内のレイアウトはP-3Cに準じたものとなり、コックピット後方の戦術士(TACO)席はバブルウインドウとなっている。胴体上部にESMアンテナが設置され、2つの半球状フェアリングが特徴的である。P-3Cと同じく、機体後部には磁気探知機(MAD)を収納したテイルブームを備える。下方の目標探知能力を強化する為、国産の新型アクティブフェーズドアレイレーダーHPS-106が採用され、機首レドーム内と前脚格納部付近のフェアリングに設置されている。このレーダーにより、P-3Cよりも高高度から微小な目標を探知することが可能となる。
機首下部にはSH-60K哨戒ヘリコプターと同様に赤外線探査装置(FLIR)ターレットを持つが、普段は機首内に格納されており、使用時に機外へ出す。ソノブイ発射口は機体下面、主脚の後部にあり、海面に投下した複数のソノブイの音響や高性能レーダーなどからの情報を一元処理し、潜水艦や不審船を探知する戦闘指揮システムに人工知能を搭載する。また、胴体下面には敵味方識別装置(IFF)アンテナをはじめ、通信・航法・ソノブイ電波受信用のアンテナが設置されている。また、戦術データ・リンクとしてMIDS-LVT端末も搭載する。
武装は、P-3C同様に機首の下部に格納庫(いわゆる爆弾倉)を持ち、対潜爆弾(航空爆雷)・魚雷を投下できる。主翼の下にはいくつかのハードポイントが設置されており、最大8発の対艦誘導弾などを装備できる。
P-1のジェットエンジンはF7ターボファンエンジンである。これは技本が石川島播磨重工業(現IHI)を主契約企業として2000年(平成12年)度からXF-7-10として開発を開始したもので、開発総額は200億円以上。2004年(平成16年)10月に防衛庁の装備審査会議を経て10月28日に正式に採用を決定した。
F7は、離陸時推力が1基あたり約60kN(約6.1トン)と、一般的な50-100席クラス旅客機用エンジンと同水準で、バイパス比は8.2:1。省燃費・低騒音を特徴とする。先行して開発されたXF5-1の技術が移転されており、日米英独で国際共同開発した民間用の同クラスエンジンV2500の経験も役立った。IHIがタービンなど基幹構成品を開発・生産するほか、川崎と三菱も部品を供給する。
推力でいうと航空自衛隊のC-1輸送機に搭載するJT8D-9と同等で、同クラスの現用エンジンはGEのCF34-8E(エンブラエル170が搭載)程度しか存在せず、選択肢の少なさから国内開発となった。
P-1では主翼下パイロンに4基が搭載される。機体搭載状態では内側エンジンにスラスト・リバーサが装備される。エンジンを多数搭載する事はコスト高、燃費性能の悪化をもたらすが、既存の4発機の対潜哨戒機では、哨戒飛行中にエンジンを1~3発停止させる事で燃費向上を図っており、本機も同様の運用がなされるものと思われる。ちなみにアメリカ海軍のP-8はエンジン双発であるが、それゆえに哨戒飛行中の一部エンジン停止は難しいとされる。
エンジンの騒音は、プロペラ機であるP-3Cに比べて、巡航出力で10デシベル程度、離陸出力で5デシベル程度低減しているとされ、性能向上による発着回数の低下が予想されることと相まって、配備が想定される基地周辺の自治体住民の負担軽減につながることが期待できる。厚木基地周辺の大和市、綾瀬市が行った調査でP-3Cに比べ騒音が低減されていることが確認されている。
量産機配備間もないP-1であるが、2020年代以降の潜水艦の静粛化、高性能化及び行動海域の拡大に対して哨戒機の対潜能力の優位性を確保するため能力向上のための研究が行われている。 具体的には、機材のCOTSリフレッシュ、情報融合能力を有した戦闘指揮システム、レーダーや光学及び音響センサーの信号処理技術の研究などである。平成25年度に研究試作を開始し28年度内に所内試験を終える予定である。
乗員: 運航要員2名+操作要員11名
全長: 38.0m (124ft8in)
全高: 12.1m (39ft4in)
翼幅: 35.4m(114ft8in)
最大離陸重量: 79,700kg (176,000lb)
動力: F7-IHI-10 ターボファンエンジン、60kN (13,500lbs) × 4
性能
最大速度: 996km/h (538ノット)
巡航速度: 833km/h (450ノット)
航続距離: 8,000km (4,320nmi)
実用上昇限度: 13,520m (44,200ft)
武装
空対艦ミサイル、短魚雷、対潜爆弾など9,000kg(20,000lb)以上