南海6000系電車(なんかい6000けいでんしゃ)とは、南海電気鉄道の高野線で運用されている一般車両(通勤形電車)の一系列。
6000系 概要
製造初年は1962年。同年12月25日から営業運転を開始した。南海の4ドア通勤車としては初の高性能車である。東急車輛製造がアメリカ・バッド社のライセンス供与を受け、日本で初めて開発したオールステンレス車体を採用した。東急車輛製のオールステンレス車としては同じ1962年に、その嚆矢となる東京急行電鉄(東急)7000系電車、続いて京王帝都電鉄(現・京王電鉄)3000系が登場しているが、この2系列は18m級3ドア車であったのに対し、同年12月に登場した本系列は初めての20m級車体となった。側扉は片開き式で、2017年5月現在の高野線所属車では唯一の存在である。南海本線に導入された7000系は、本系列の普通鋼製車体バージョンである。ステンレス車体は事故などで損傷した際の修繕が難しかったため、6000系以後も踏切の比較的少ない高野線はステンレス車、南海本線は鋼製車というパターンが9000系の投入まで続くこととなった。
登場当初は難波方からモハ6001形(Mc、制御電動車)+サハ6801形(T、付随車)+モハ6001形(Mc)の3両編成であった。1964年に新製された編成は同じ3両編成でもモハ6001形(Mc)+モハ6001形(Mc)+クハ6901形(Tc、制御車)の構成に変更されている。 制御方式は抵抗制御だが、日立製作所製超多段(バーニア)制御器(形式:VMC-HTB-20AN)を採用し、スムーズな加速を実現している。起動加速度はM・T同数編成で2.5km/h/s、2M1T編成で3.4km/h/sである。主電動機は三菱電機製MB-3072-A(後にB)で、出力は600V時115kW/1600rpm、1500V時145kW/2000rpm、昭和37年当時の狭軌電車用電動機としては最強クラスのモーターである。1500V時の定格速度は60km/hで、通勤車としては高いうえに弱界磁制御を30%まで行う。駆動装置はWNドライブ。ブレーキ方式は発電ブレーキ併用電磁直通空気ブレーキ (HSC-D) 、台車は米バッド社の技術の下、製造元の東急車輛製造が改良し軽量化を図った軸箱梁式のパイオニアIII(東急車輛製造製TS-702、付随台車はTS-702[T])型で、軸箱外側に露出したディスクブレーキのローターが特徴である。
本系列登場時、南海電鉄の架線電圧は600Vであり、本系列は600V対応の電装品を搭載して製作されたが、1500Vへの昇圧が決定した1965年以降の新製車は600Vと1500Vの双方に対応する複電圧車となり、さらに1966年以降の新製車は輸送需要も高まりつつある時期とも重なり4両編成とされた(この時の編成はMc+Tc+T+Mc)。また初期車も4両編成化されており、このために登場当初は先頭車だった車両を中間に組み込んだ編成が存在する。初期車は1972年に複電圧仕様に改造され、1973年10月の昇圧を迎えている。
1969年まで72両が新製され、2017年5月現在も全車が在籍している。車齢50年を越えて現役を続ける例は鉄道車両では少なくないものの、同世代の車両の多くが廃車、譲渡、転属される中で、大手私鉄の車両で1両の廃車も転属もなく、50年もの間同一線区を動かなかった例は非常に珍しい。老朽化が目立たないため、代替車両の計画も今のところ具体化していない。
また、更新後に検査を行った所、腐食がほとんど見受けられなかったためVVVFインバータ制御化も検討されたが、全車が更新を終えていたため計画は立ち消えとなった。
車両構造上、同期登場の7000系は普通鋼製だったことが災いし、塩害による車体へのダメージが酷いことから、2015年10月までにすべて廃車となっており、車体の構造が明暗を分けた格好である。
改造工事
クハ6901形奇数番号車の方向転換
1969年に6000系の製造が終了したが、この時点での6000系はMc+T+T+Mcの編成が3本、Mc+Tc+T+Mcの編成が15本であった。1971年に高野線で6両運転を開始するにあたり、後者の編成の形では6両を組む際に効率が悪くなることからこの編成を前者の形の4両編成と2両編成に組み替えることにした。これに合わせて、増結編成を確保するためクハ6901形の奇数番号車を1970年から1973年にかけて国鉄の竜華操車場に依頼して方向転換を行った。製造当初はすべて下り方に運転台があったクハ6901形だが、この方向転換により奇数番号車は上り方、偶数番号車は下り方に運転台がある形となった。これにより、6000系はMc+T+T+Mcの編成が10本、Mc+T+Tc+Mcの編成が1本、Mc+TcとTc+Mcの編成が各7本ずつに再編された。
複線化対策工事・長編成化対策工事
三日市町駅 - 橋本駅間の複線化工事を実施し、完成した際に橋本駅まで20m車を入線させることが決定したが、紀見峠を越える急勾配区間で抑速制動を使用するため、電動車に設置していた電動発電機 (MG) を隣の制御車・付随車に移し、その空いたスペースに電動車の抵抗器を増設する工事が1976年から1981年にかけて実施された。
また長編成化により増解結の頻度が多くなったことから増解結作業の効率化を図るため、1980年から1982年にかけて、非冷房のままそれまでのNCB-II型密着自動連結器に代えて、CSD-90型回り子式密着連結器と電気連結器とを一体化した全自動密着連結器に取り替えられた。
一部の車両では複線化対策工事と長編成化対策工事が同時に施工されている。
なお、6013F・6029F・6035Fの3編成12両には、方向幕の設置工事が複線化対策工事と同時に行われたが、電気連結器設置と同時に方向幕はあまり使用されなくなり、以後更新までは方向幕を余白状態として他の編成と同様に方向板を掲げて運用されていた。
更新工事
1985年より車体の更新と、冷房改造を実施することになった。本系列のパイオニアIII台車では冷房を搭載した分の車重増加に対応できないため、住友金属工業製S型ミンデン台車への更新も同時に行うこととした。施工は、初期に東急車輛で更新された一部を除き、南海車両が担当している。
台車更新では、60両分の台車を新製のS型ミンデン台車(住友金属工業製FS-392C、付随台車は092A)とし、一部の付随車12両分の台車は更新後経年が浅かった10000系によって置き換えられた旧1000系の廃車発生品であるM車(電動車)用だったミンデンドイツ式台車(形式:FS-355)を装着した。
この改造により当時パイオニアIII台車だった6100系との併結は不可能になったが、S型ミンデン台車装着の6200系との併結は可能となった。6100系のS型ミンデン台車装着改造車である6300系との併結も可能である。細かいところでは、パイオニアIII台車の撤去に伴い、バッド社とのライセンス契約を示すプレートが車内から外されている(これは後述の6300系も同様である)。また、ラッシュ時の乗客のドアへの挟み込みに備えて、客用ドアの再開閉スイッチの追加も行われた。
この際、台車の問題により更新済みの編成と更新前の編成の間で併結が不可能となり、全編成の更新が完了するまでこの状況が続いた。また、T車(付随車)に関しては機器配置が変更されたため更新後はサハ6801形をサハ6601形に改番した。
なお、前述の方向転換後も唯一固定編成の中間に組成されていたクハ6901形6901号車はこの改造と同時に運転台を撤去し、サハ6601形6610(6009F4両編成の3号車)として現在に至っている。これ以外の6000系は更新時の車号改番は行われなかった。
製造当初は高野線難波 - 三日市町間で使用されていたが、1984年3月11日のダイヤ改正で林間田園都市駅まで20m車が入線可能となり、また1992年11月10日のダイヤ改正では橋本駅まで20m車が入線可能となったため、現在では難波 - 橋本間と泉北高速鉄道線で使用される。
2005年10月16日のダイヤ改正以後は運用の効率化を図るために、橋本以北では中型車の2000系ズームカー運用を減少させたこともあり、運用数が多くなっている。従来ラッシュ時に2000系で運用されていた列車を6000系列などの大型車に置き換えることで、混雑緩和が図られている。また同ダイヤ改正では乗客減のほか、全体的に20m車両の運用の増加により車両不足となったため、昼間時の各停の一部に4両編成が十数年ぶりに復活したほか、平日朝の泉北高速鉄道線直通区間急行・準急に見られる10両編成から6000系列が撤退し南海車両による10両編成列車が消滅した(泉北高速鉄道線の10両編成列車も2013年7月19日を以って消滅している)。8連の運用もどちらかというと泉北の車両で運転されることが多い。なお、各駅停車の4連運用は従来6000系・6300系に限定されていたが6200系VVVF更新車も使われるようになった。 一方で急行・区間急行はラッシュ時を中心に8連での運用が多い。各駅停車も泉北高速線内完結や、河内長野〜橋本駅間で運用するものは8連で運転される列車がある。
南海では車両故障時の冗長性の確保を重視しているため、6000系の4両固定組成(編成内にMGが1台しかない)は組成単独では使用されない(かつては6200系の4両固定組成も、編成内に制御器とCPが1台しかないために単独運用、更に4両組成に別の2両組成が1編成しか併結しない場合の6両編成運用を避けていたが、4両固定組成の全車VVVF制御化でこの制限は解除された)。また千代田検車区の配線の関係で6両固定編成や4両固定編成と2両固定編成を連結するときは2両固定編成が必ず下り方になる。6000・6200・6300系は相互に連結可能なので混結は珍しくないが、組み合わせ方にはかなり制約がある。また、6000各系列(元8200系の、6200系50番台も含む)の4両組成と、6両組成には全編成、難波方から4両目となる4号車には「女性専用車」のステッカーが貼られている。このため、平日朝ラッシュの8両編成の急行と区間急行で運用される場合、4号車が「女性専用車」となる。ただし8両編成でも、準急行・各駅停車では実施していない。
なお、6000系については併結時に運転席と反対側にある乗務員用の席が空席となるため、そこに着席することも出来る。実際、その席に着席するとボックスシートなどと同じく線路方向を向いて座ることが出来る(ロングシートは横方向)ので利用する人も多い。また、6000系と6300系の一部に運転席が撤去された車両があるが、やはり運転席と反対側のスペースには自由に入れる。貫通扉を閉めれば半個室状態になるため、ラッシュ時を中心にこのスペースを利用する人もいる。
1985年6月16日のダイヤ改正までは汐見橋線での運用があった。また1995年まで橋本駅の最長編成が4両編成であったため、三日市町駅での増解結作業を行う運用も存在していた。いずれも6000系・6100系限定での運用だった。
基本情報
製造年 1962年 - 1969年
製造数 72両
主要諸元
設計最高速度 120(100※) km/h
台車
S型ミンデン式ダイレクトマウント空気ばね台車
FS-392C・FS-092A
ミンデンドイツ式ベローズ式空気ばね台車
FS-355
(軸箱梁式パイオニアIII形台車※)
(TS-702・TS-702T※)
主電動機 直流直巻電動機
制御装置 超多段式バーニア抵抗制御方式
VMC-HTB-20AN
制動装置 電磁直通ブレーキ
(発電ブレーキ併用、抑速ブレーキ付き)
備考 ※は更新前のデータ