対空ミサイル防衛網を突破して地上部隊直上に接近した低空域の敵航空機を撃墜するための地対空ミサイルで、高射機関砲L-90の後継として高射特科部隊に配備が進んでいる近距離防空ミサイル・システム。外見は米軍のアベンジャーとよく似たシステム構成だが12.7mm機関銃は装備されておらず、発射機内にて操作員が直接操作する方式ではない。1990年(平成2年)に試作車が完成し、1992年(平成4年)に実用試験を開始。1993年(平成5年)に「93式近距離地対空誘導弾」として制式採用され、翌1994年(平成6年)に部隊配備が開始された。システムの生産は東芝が担当している。
高機動車の車体に91式携帯地対空誘導弾と同じミサイルを使用する4発×2基の発射機と射撃統制装置を搭載している。荷台の部分に旋回式の発射機を設置しているため、ミサイル発射時のブラストから乗員を護る目的で、乗員室の上面と背面を金属板のカバーで覆っている。
陸上自衛隊で同じく使用されている、トヨタ自動車が開発した高機動車の車体をベースに、通信アンテナの前部バンパーへの移動、操縦席幌のFRP化などの改造を施した上で、車体後部の荷台に91式携帯地対空誘導弾(SAM-2)の8連装発射装置を搭載している。ミサイルは赤外線誘導方式+画像誘導方式なので赤外線妨害手段を有する目標に対しても優位に攻撃できる。発射機の間にはTVカメラや赤外線センサー、レーザー受光部を収めたボックス、IFFアンテナなどが配置されている。
普段助手席側のダッシュボードにセットされている射撃操作器は、取り外して車外での使用も可能であり、発射機から離れる事で射手の安全性をはかる事ができる。射撃操作器にはコントロール用のジョイスティックとモニタが付いており、ゲームの世界のような印象を受ける。直上の低高度目標への対空戦闘を任務とするため固有のレーダーは持たない。そのため戦闘情報は上部指揮所から入手するほか、鉄帽に装着するタイプの目視誘導装置を使用して目標の捜索や射撃諸元の測定を行なう。射撃コンソールは、車外に設置することも可能で、車外から遠隔操作をすることによって発射機への攻撃に対して操作員の生存性を向上させることができる。
車内には3人が乗り込む事ができるが、運転席と助手席に挟まれた中央の席の人(一般には指揮官)は足を伸ばすスペースがなく、常に体育座りのような姿勢を保つ必要があるとか。「長時間だとキツいです」とは隊員の弁。公募によって「クローズドアロー」というニックネームがついているが、たぶんそんな名前で呼んでいる隊員はおらず、「近SAM(きんサム)」が通称となっている。
愛称 クローズドアロー
全長 約1,430mm
直径 約80mm
重量 約11.5kg
誘導方式 画像+赤外線誘導方式
製作 東芝