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降着装置(航空機)

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降着装置(こうちゃくそうち)とは、航空機の機体を地上で支持する機構で、そのうち特に着陸の際の衝撃などを受けられるものを指す。着陸装置、ランディングギア (Landing gear)、アンダーキャリッジ (undercarriage)、着陸脚ともいう。

通常は車輪と緩衝装置から構成されるが、水上用にフロート、雪上用のスキー、艦載機ではアレスティング・フック、ヘリコプターではスキッドを備えることもある。

主脚
重心近くすなわち主翼近辺にあって荷重のほとんどを支持するものを主脚と呼び、通常左右に配置される。静安定維持のためには重心周りに最低3点が必要なので、両主脚以外にあと1点分の脚が必要である。

前輪式と尾輪式
地上滑走用の着陸脚の配置には、主脚以外の1脚の位置によって前輪式と尾輪式の2つに大別できる。これまで製造された航空機の多くはこの2種類どちらかの配置か、またはその類似・派生の配置になっている。

主脚以外の1脚を前方の機首下部に置くものを「前輪式」(首車輪式、首脚式、前脚式、トライアド、Triad)、機体後部に置くものを「尾輪式」(テールドラッガ、Tail-dragger)と呼ぶ。尾部の支持は実際には車輪ではなく橇(そり)のこともあり、その場合には「尾橇式」といわれることもある。3車輪式(3輪式、Tricycle gear)という呼称もあり、厳密に解釈すれば両方の形態を指しているとも取られることがあるが、大勢としては特に前輪式を指して用いられることが多い。逆に「3点姿勢」「3点着陸」等のように、3点と言及されるときには尾輪式を指すのが通例である。

英語では尾輪式を"conventional landing gear"と呼ぶことからもわかる様に、かつては尾輪式が主流だったが、現代のほとんどの航空機は前輪式またはそれの変形方式を備えている。その理由として尾輪式の離着陸が難しいことがあげられる。

グラウンドループ
静安定性では尾輪式と前輪式の差はない。しかし、地上への着陸時の動安定性では大きく差が出る。機体荷重のほとんどを支えブレーキ摩擦によって速度を減殺する主脚の位置が、尾輪式では機体重心位置の前方に位置するため、機首方向が走行方向と異なる状態でブレーキをかけるとますます差が拡大してしまい、修正が困難となる。このため、尾輪式は常に方向を修正しながら制動しなくてはならず、修正が間に合わないと「グラウンドループ」と呼ばれるヨー方向のスピンに入ってしまう。前輪式では制動力は機体重心より後方で生じるのでズレを修正する力が働く。
前輪式では着陸時の制動によって機体が前傾することが少なく、また、離陸滑走開始時から機体の水平(すなわち適切な主翼迎角)が保てるために、滑走中盤に尾輪が浮上するまでは過度に大きい主翼迎角となる尾輪式に比して、離陸性能を高く出来る。尾輪式の離陸滑走初盤では操縦席正面から滑走路が直視できない(空しか見えない)機種も多く、とくに大型機すなわちプロペラ直径が大きく主脚を長くせざるを得ない機体の並列複座操縦席で顕著であり、側面の窓から路面の流れを見て直進を維持するなど操縦に技術を要した。21世紀現在ではそもそも尾輪式の機体が少ないこともあり、尾輪式の航空機を離着陸させるのは習熟したパイロットでないと困難である。

ただし尾輪式には利点もある。降着装置は荷重を支えるため頑丈でなければならず、軽量化を阻害して航空機設計の大きな課題となっているが、前輪に比べて尾輪は機体重心から離れているためてこの原理で簡単・小型にすることができ、その分軽くなる。引き込み式でなく固定式にする場合、前輪式の首脚に比べ小型にでき飛行中の空気抵抗が少ない。

21世紀現在ではほとんど存在しなくなったが、尾輪式でも過去に存在した機体では、無垢のゴムタイヤや金属車輪など簡単な構造の事も多く、そのままで機首上げ状態を維持できているため脚自体も非常に短いかほとんど存在しなかった。前輪式で機首脚を持つ場合は、少なくとも機体姿勢を水平に維持できるよう、主脚と同じぐらいかそれ以上の長さでなければならない。構造も主脚と同様の緩衝装置と中空タイヤとなるのが普通だが、そのため一般的には尾輪より前脚のほうが機体の構造としては複雑になる。

また、ツポレフTu-95やコンコルド、SAABドラケンの様に、高迎え角で離着陸する際に尾部を擦らないように、前輪式機体ではあるが収納式の尾輪を同時に持つ機体も存在する。逆に、ツェッペリン・シュターケンR.IVのように離着陸時の前のめりを防止するため、尾輪式でありながら固定式の前輪を備える機体もあった。

構造
着陸脚の構造は基本となる車輪部と、着地の衝撃を吸収する緩衝装置、そして引込装置やブレーキやトルク・リングなどから構成される。1本の脚柱に複数の車輪がつく場合には、同軸に配置するかボギー(台車)を用いる。

車輪
車輪は一般にゴムタイヤを用いる。大型機のいくつかでは外気温変化の影響を避けるため水蒸気分圧を低くした純窒素ガスを充填するが、旅客機では空気を充填している。整備のよい滑走路を使用する大型旅客機等では着地時のタイヤ変形量と接地面積の増大による転がり抵抗を考慮して充填圧は乗用車やトラック(0.2-0.7 メガパスカル程度)に比べ高く設定される(1 メガパスカル以上)。滑走路上の異物などを踏んでしまった場合、充填圧が高いとタイヤ破裂の危険があるため、不整地や悪条件での離着陸を念頭において運用される際には、わざとタイヤの圧力を低くして滑走中のタイヤ破裂という最悪の事態を避ける。

緩衝装置
油と空気をピストン内に閉じ込めたオレオ式の緩衝装置 (Air/Oil Shock Strut) が普及する前の初期の軽量な機体の衝撃吸収には、車軸と機体の間をゴム製の緩衝コード (Rubber Shock Cord) で結んだ構成が採用されていた[6]。21世紀現在でも一部の小型機などでは同様のものが用いられることがある。小型機では他にも積層ゴム円盤 (Stacks of Rubber Disk) を組み合わせたものや、脚柱自体の弾性をもって緩衝装置とするものも用いられているが、一般的な航空機にはピストン式の緩衝装置が採用されている。また、引き込み式でなく固定脚のままで空気抵抗を減少させる為に、脚と車輪の回りに「スパッツ」と呼ばれる整流覆いをつける機体もよく見られる。

航空機の自重は、空中では主翼が支持し地上では着陸脚が支持する。しかしその水平断面積の差を考えると単位面積あたりの荷重は着陸脚にかかるものの方が桁違いに大きく、着陸脚は主翼よりも遥かに頑丈な構造で衝撃を吸収しなければならない。このため着陸脚は航空機の艤装品の中でもかなり重量があり、運用利便性や不時着時安全性を犠牲にしてでも飛行性能を追及した一部の機体では、離陸後に脚を投棄する形式としたものもあった。

付随装置類
低速飛行を主体とする小型機やフロート式・スキッド式降着装置などを除けば、多くの航空機で一般的に採用されているタイヤ式の脚部は、飛行中の空気抵抗や障害の発生を避けるために、機体内に収納するようにできており、油圧式のアクチュエータやモーターなどで上げ下げが可能な引込装置を備えている。機体への支持方法は、機体の構造部材にブラケットとトラニオンを組合わせた方式が使用されている。トラニオンには緩衝支柱が取付けられており、脚の上げ下げの行程において、そこを支点に前後又は左右に回転するようになっている。支柱の下端は車輪の軸やボギーになるが、緩衝装置のピストン内筒とその下部の車輪が自由に回転しないよう、緩衝装置にトルク・リンクを取付けるか又はピストン内面の溝に凸部が嵌ることによって脚の向きを正面に保っている。また、脚下げ時に、地上において不用意に脚が引き込まないように、脚の周囲にさまざまな形式のリング機構[注 3]が取付けられており、後述するダウン・ロック機構により固定される。その他に、脚操作のハンドルを地上ではロックして、離陸後にはロックを解除する安全スイッチ、脚のいくつかの支持部分をピンで固定するグラウンド・ロックなどがある。

引込装置の確実な動作は航空機にとって重要であり、脚部格納部の格納扉(ドア)の開閉も含めて多くの機体ではモーター駆動による電動式又は油圧による油圧式を採用しており、前者は主に小型機に、後者は主に大型機に使用されている。基本的には、操縦室にあるスイッチ又はレバー又はハンドルを操作すると、脚下げの場には、アップ・ロック[注 7]が解除され脚部格納部のドアが開き、その後、脚部格納部から脚が可動して下がり、完全に下がるとダウン・ロックが作動する。脚上げの場合には、ダウン・ロックが解除され脚が可動して上がり、脚部格納部に収まった後、脚部格納部のドアが閉まり、アップ・ロックが作動する。

脚とその格納扉のアップ・ロックとダウン・ロックにおいては、機械的な機構またはラッチ・シリンダーで作動するラッチ・フックにより行われる。操縦室には、脚位置指示器と脚警報装置が装備されており、脚位置指示器は、前述の機械的な機構またはラッチ・シリンダーで作動するスイッチの信号を受信することにより、脚の動きと位置を目視で確認でき、脚警報装置は、引込装置の脚が1本でもダウン・ロックされていない場合で、エンジンの出力を操作するスロットル・レバーをアイドル(アイドリングの状態にまで出力を下げる)にすると、ホーン音の警報と赤色の警報灯が作動する。また、引込装置には、脚下げの際に動力系統が故障した場合に備えて非常脚下装置が装備されており、油圧式は、操縦室に装備されたエマージェンシ・リリース・ハンドルを操作して、脚のアップ・ロックを解除して脚を自重により下げる方式と手動ポンプ又は電動ポンプを使用し、発生する油圧で強制的に脚を下げる方式があり、電動式は、手動ハンドルを回すことで脚を下げる方式が使用されている。

車輪に駆動装置はないが、主脚の車輪内にブレーキ装置を内蔵しており、自動車と同じく油圧式を使用している。ただ自動車とは違い、ブレーキ系統が左側の車輪用と右側の車輪用とで独立しており、そのため、ブレーキ・ペダルも左側と右側の2つあり、方向舵ペダルの上方に設置されている。また、大型機では、多くの量の作動油と高い圧力でなければブレーキが掛からない為、作動させる際にはエンジン駆動の油圧ポンプによる、油圧系統による高圧の作動油を使用した油圧式が使用される。またこの高圧の油圧系統は引込装置、操向装置、操縦装置なども作動させる。

地上走行中(タキシング)に使用される操向(ステアリング)の作動方式としては、前輪式の場合、小型機は、機械式が使用されており、方向舵ペダルの動きを、プッシュ・プル・ロッドで前脚支柱に取付けられたホーンに伝達し、緩衝装置のトルク・リンクを介して前輪を操作する。大型機は、油圧式が使用されており、操縦席にあるステアリング・ホイール又はハンドルを回すと、索を介して差動装置のコントロール・ドラムに伝達され、差動装置のコントロール・ドラムの動きがフォローアップリング機構の差動リングを介して、油圧系統のラインが繋がっている前脚操向のコントロール・バルブ[注 12]に伝達され、コントロール・バルブが作動すると、油圧系統からの高圧作動油がバイパス・リリーフ・バルブ]を介して、前脚支柱に取付けられている操向ユニット内のアクチュエータとの間で出入りを行いながら作動して、緩衝装置のトルク・リンクを介して前輪を操作する。尾輪式の場合は、方向舵と共に動く構造になっており、それによるステアリング機能か、左右の主脚のブレーキング差動によって行われる。また、古い時代の機体では、ステアリング機能もブレーキもついていない事があり、地上走行における方向転換は方向舵が受けるプロペラ後流の反動に頼っていた。


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