89式5.56mm小銃(はちきゅうしき5.56ミリしょうじゅう、英:Howa Type 89 Assault Rifle)は、自衛隊が制式化した自動小銃である。1990年代以降、陸上自衛隊の主力小銃となっている。
広報向けの一般公募愛称は「バディー」であるが、部隊内では単に「ハチキュウ」と称される。
概要
89式5.56mm小銃は、64式7.62mm小銃の後継として開発され、1989年に自衛隊で制式化された。国産のアサルトライフルに相当し、自衛隊と海上保安庁、警察の特殊部隊(SAT)において制式採用されている。開発製造は豊和工業が担当し、1丁あたりの納入単価は20万円台後半-34万円(調達数によって変動)。武器輸出三原則により納入先が自衛隊など日本政府機関のみに厳しく制限されてきたため生産数が伸びず、量産効果による価格の下落は期待できない。そのため、世界各国の現役の主力小銃としては高価な部類に入る。
使用する弾薬および弾倉は、西側の共通規格である5.56x45mm NATO弾とSTANAG弾倉に準じている。そのため、必要があれば在日米軍などの同盟軍とそれらを共用できる。また、5.56mm機関銃MINIMIとも弾薬互換性を持つ。さらには特別な器具なしで06式小銃てき弾を装着できるため、すべての89式で火力支援と限定的な対戦車戦闘が可能となっている。
形状は、日本人の平均的な体格に適した設計がなされている。銃身長420mmというカービン(短縮小銃)に近い長さでありながら、大型の消炎制退器の銃口制退機能によって高い制動性と良好な集弾性能を有する。また、取り外し可能な二脚を有し、展開し接地することで安定した射撃ができる。銃床は固定式だけでなく、コンパクトに折りたためる折曲銃床式が空挺隊員や車両搭乗隊員向けに配備されている。
材質・製造方法は、大量生産が容易なように選択されている。銃床、銃把、被筒には軽量かつ量産性に優れた強化プラスチックを採用し、金属部分はプレス加工を多用している。さらに、銃を構成する部品数が64式から大幅に減り、生産性や整備性が向上している。
冷戦末期に設計された本銃であるが、海外派遣やゲリコマ対策など新たな課題に向けて、各部の改修・改良が実施されている。進捗は部隊によって異なるが、左側切換レバー設置や光学式照準器の装着などが進められている。さらには本銃を試作原型とした「先進軽量化小銃」が開発中である。
特徴
基本構造
先端に備わる消炎制退器・照星部・ガス調整子
二脚と消炎制退器の間にあるのは剣止め
万一の脱落を予防するため、ガス調整子に針金、被筒先端にビニールテープが巻かれている
第26普通科連隊第2中隊武器庫にて。 初期型のため、現在とは切替軸と負い紐及び刻印に違いがある
銃本体は銃身部、銃尾機関部、引金室部、銃床部で構成される。スチール板プレスやロストワックス、樹脂部品の採用で軽量化を図り、小口径弾薬の使用と効果の高い銃口制退器によって射撃時の反動を軽減している。部品点数は約100点で、64式7.62mm小銃に比べて約10%減少している。
防衛陣地の掩体などからの安定した射撃と連射時の命中精度向上を重視し、64式と同様に二脚を標準装備する。アルミニウム系軽合金製の二脚は64式のものと異なり、脱着が可能で、中央即応連隊のように式典時を含め、取り外している部隊も存在する。二脚は被筒部に畳んだ状態でも銃を保持しやすいよう、突起を少なくし、支柱部分はゆるく曲がった形状になっている。被筒部は前方にある止め軸を外すことで、左右に分離する。外した二脚は専用の収納袋に入れて携行する。
被筒部には放熱口が開けられている他、内部は金属部から熱が直接伝わるのを防ぐための隙間が設けられている。尾筒上面には薬莢受けなどの取り付けを考慮し、マウントが溶接されている。また、ダストカバーも備わっている。
照門部には左右に転輪が備えられ、左が射距離切替用、右が左右調整用となっている。射距離切替の左側転輪を一杯に回すと最大値まで上がった後に最低位置に戻る機構となっている[が、最小値まで戻す際は転輪を逆転させて下げるよう推奨している。これは、最大値を乗り越えてパチンと下がる動きを繰り返すと、金属疲労により調整機構が破損する事があるためである。64式の照門部は起立式で、作戦中倒れるという指摘を受けて、89式の照門部は固定式となった。また、夜間射撃用に「夜間概略照準具」が開発されており、照星と照門に取り付けて使用する。
握把は、プラスチック製の一体成型で、内部にはクリーニング用具や手入れ用オイルを収納するためのスペースが設けられた。下面の蓋は、実包の先端などを利用してロックを解除する事で開く。
銃の前部には89式多用途銃剣が着剣できる。消炎制退器内部は、M16などと同様にテーパ状になっており、奥には空包発射補助具取り付け用ネジが刻まれている。
銃床は64式のものと同様、頬当て部が大きくえぐられた左右非対称の形状となっており、視線を銃の中心に近づけて照準できる。床尾板はゴム製で、銃を保持した際に滑りにくくすると共に消音効果も生みだす。床尾後面には、やはり滑り止めを考慮したX型のリブが設けられている。
89式の尾筒左側面前端に「89式5.56mm小銃」との制式名の刻印が入り、その後方に銃番号・製造年月日・豊和工業のトレードマークが打たれている。なお、2000年頃より納入されている89式には「89R」の刻印が入れられている。
追加仕様
89式は、対テロ・対ゲリラ戦闘や海外派遣など近年の防衛方策の変化に伴い、使用する現場の要求と状況に合わせた改修が施されている。特に第34普通科連隊がアメリカへ訓練派遣されたことをきっかけとし、自衛隊では米軍式CQBを取り入れ始めた。その後、第16普通科連隊、普通科教導連隊と続き、それらの経験を踏まえて野戦一辺倒であったものから機動性に富むものへと、89式の運用方法に新たな方向性を決める事となった。以降、至近距離目標への射撃訓練や、密集隊形による小銃を振り回すような訓練、二脚の取り外し、民間メーカー協力による(制式化以前の)ダットサイトの導入など、それまで行われていなかった動きがみられるようになった。
89式は、自衛隊式の匍匐前進時の上面となる右側面に切換レバーを設けているが、イラク復興支援特措法に基づき、イラクのサマーワに派遣(自衛隊イラク派遣)されていた部隊では、左側にも切換レバーが付けられた。これは、他の自動小銃のように操作性を高めることに重点をおいた物ではなく、左手に持ち替えて発砲する際に右手で撃っているときと同じ程度の操作が行えるようにするための改修とされる。この改修は、イラク派遣における一時的なもので、任務終了時には改造指示書により、左方切換レバーは取り外された。
後に、市街地戦闘訓練で得た部隊からの改善要求に伴い、すべての89式に左方切換レバーの取り付けが正式に決まり、順次左方切換レバーの取り付けが始まっている。
この改造を、折曲銃床式の89式で行うと切換レバーと干渉して銃床が折りたためなくなるため、干渉を避けるための溝をつけたタイプの銃床の配備も同時に行われている。
89式小銃用照準補助具
光学照準器(ダットサイト・低倍率サイト)
近接戦闘で素早く照準を合わせられる光学式の照準器。2000年代に入ってから陸上自衛隊や海上保安庁で使用されている。訓練を撮影した画像では、サイトロンジャパンのMD-33やAimpoint ABのCompM2もしくはML2、EOTechのEOTech551などが確認されている(これらは、隊員の自費や部隊単位で購入されたものである)。ダットサイトの取り付けに必要なレールマウントは、サイトロンジャパンやスイスのブリュッガー&トーメ社が販売している。
陸上自衛隊ではタスコジャパン(現:サイトロンジャパン)のMD-33や機種不明の官品ダットサイトをイラク派遣の際に採用しており、イラク派遣仕様の89式に取り付けられた。平成19年度予算からは、その後継となる「89式小銃用照準補助具」が調達されている。89式小銃用照準補助具用のマウントは、側面に薬莢受けやレーザー交戦装置(バトラー)用のレーザーを取り付けることが可能になっており、他のマウントのように、それらの装置と併用できなかったり、併用することでダットサイトの取り付け位置が変わることが無いように設計されている。2010年に確認されたものはマウント(ピカティニー・レールを採用)や本体の形状が変更されている。
調達は初年度のみ辰野株式会社からの購入で、以後は東芝電波プロダクツから購入していたが、22年度は辰野株式会社から購入している。
2013年にオーストラリアで行われたAASAM(Australian Army Skill at Arms Meeting)に参加した陸上自衛隊の部隊はピカティニー・レールを取り付け、ACOGを装備している。
また詳細は不明だが、東京スコープからG89と呼ばれる光学サイトが納入されている
赤外線レーザー照準具(JVS-V1)
愛称 BUDDY
略称 89R
口径 5.56mm
全長 約920mm(固定銃床型) 約670mm(折曲げ銃床型)
銃身長 420mm
重量 3.5kg
作動方式 ガス圧利用
給弾方式 箱弾倉
発射速度 最大850発/分
製作 豊和工業