KC-767は、アメリカ合衆国の航空機メーカー、ボーイング社が開発した空中給油・輸送機。開発母機はボーイング767。
ボーイング社では、これまで空中給油機としてKC-135 ストラトタンカーと、それを母機にしたボーイング707の派生型KC-707を製造してきたが、707は性能の陳腐化から1991年に生産を終了した。また、アメリカを代表する空中給油機は他にマクドネル・ダグラス社のDC-10を改造したKC-10 エクステンダーもあるが、マクドネル・ダグラス社がボーイング社に吸収されたため、後継機が開発されないままとなっていた。
そこでボーイング社は両機の後継として、自社のボーイング767を改造した空中給油・輸送機、767T-T(767タンカー・トランスポート)を提案、イタリア空軍と航空自衛隊が最初の顧客となった。なお、ボーイング767は開発を日本、イタリアの企業がそれぞれ全体の15%を担当している。
アメリカ空軍へ約100機のリース契約も決定していたが、リースでは購入するよりも高額であることが明らかになったことと、採用をめぐって国防総省との裏取引疑惑が取り沙汰されたことから採用を取り消された。紆余曲折の末、より発展させたKC-46が採用された。
開発母機は767の中でも機体の短い767-200ERの貨物タイプで、機体は小さいが航続距離が長いことが利点である。これは、長胴タイプの767-300ERでは離陸時に尾部のブームが接地する恐れがあったためである。
胴体尾部のフライング・ブーム式給油ブームの根元には大型機用のプローブ・アンド・ドローグ式給油装置1基を備える。また、翼端に給油ポッドを装備することもできる。それぞれの給油速度は、ブームが毎分900ガロン、中央部のプローブが毎分600ガロン、翼端の給油ポッドは毎分400ガロンである。フライング・ブームは新型の5世代型で、空力学的に洗練された形状と、フライ・バイ・ワイヤ方式の採用により高い精度での制御を可能としている。また、このブームは接触による受油機への潜在的な損傷を低減するため自動的に位置を補正する機能を持っているほか、以前のブームより2,600個部品が少ないために維持が容易である。ドローグも新世代型で、高耐久性と耐衝撃性のものとなっており、ワイヤーや可動部分のないトリチウムライトが装備されている。KC-767自身もフライング・ブーム式の受油リセプタクルを装備しており、空中給油を受けることが可能である。
KC-767で大きく変わった点が、給油装置の操作方法の変更である。KC-135、KC-10の空中給油オペレーター席は機体後部に設けられており、受給油機に対してオペレーターが窓越しに視認して給油操作を行うものであった。これに対し、KC-767のコックピット後部に設けられているRARO(遠隔空中給油操作ステーション、空中給油オペレーター席(AROS)2席で構成)から機体下部に装備しているテレビカメラの映像をモニター画面で見ながらタッチパネルとコントロールスティックで給油操作を行う。この給油システムは、KDC-10に搭載されたRAROシステムの発展型でRARO IIと呼称される。
操作員はロックウェル・コリンズ製の遠隔視野システム(Remote Vision System)という3D対応のゴーグルを着用し、カメラで立体的に映されたブームの様子を見ながら操作を行う。ゴーグルが無くても操作員席にある大型ディスプレイのみで操作することもできる。テレビカメラは機体底部に5台あり、機体後部には予備のオペレーター席や窓は装備されていない。テレビカメラは3次元立体視が可能なBARCS(Boom Air Refueling Camera System)及び2次元で三方向を監視可能な赤外線カメラSACS(Situational Awareness Camera System)で構成されており、前者はブーム付け根のフェアリングに、後者は後部胴体のフェアリングに装備される。
なお、空中給油装備以外に、キャビンを輸送スペースとして利用でき、C-130 ハーキュリーズを上回る航続距離と搭載量を有している。積荷は機首前方左側の入り口から搬入する。キャビンは貨物用・人員輸送用・貨客混載の3タイプあるが、この転換作業は少人数でも数時間で終えることができるようになっている。人員なら200名、車輌も小型トラックなら4台を格納できる。
エンジンはベース機と同じく、ゼネラル・エレクトリック製のCF6-80C2か、プラット・アンド・ホイットニー製PW4000を選択できる。イタリアと日本は共にGE製を選択した。なおベース機はロールス・ロイス製RB211も選択できるがKC-767では提供されていない。
日本
2番目の顧客として、日本の航空自衛隊が2001年(平成13年)12月に採用を決定し、こちらは防衛省の名称としてはKC-767、当初ボーイング社はKC-767Jとしていたが、現在はKC-767と表記している。2003年(平成15年)3月に初号機の購入契約を交わした。購入においては伊藤忠商事が代理店となっている。
自衛隊の要求は、フライングブーム式の給油装置で、1つの給油ポイントで最大8機に給油可能であること、輸送人員は200名程度、パレット化貨物は6枚、小型トラックは4台が搭載できること、航続距離は貨物搭載量30トンのときに6,500km以上であることであった。エアバス社のA310を改造したA310MRTTが競合機種としてあげられたが、空自が同型のエンジンを搭載しているE-767、B747-400(政府専用機)を運用しており、整備面での有利さもあったKC-767が選定されている。なお、ベース機体の発注先が日本政府であったE-767とは異なり、最初から一般輸入として航空自衛隊向けに発注されたため、カスタマーコードはE-767の「7C」とは異なる「FK」が割り当てられており、ボーイング方式の詳細な形式では「ボーイング767-2FK/ERの改造機」という位置付けになる。
J型はアメリカ空軍式のフライング・ブームのみを採用している。この方式の空中給油を受ける機体はF-15J/DJ、F-2A/B[15]であるが、E-767早期警戒管制機も配管などの準備が施されている。なお、UH-60Jの空中給油方式はプローブ・ドローグ方式である。また、C-130H輸送機にも受油レセプタクル及びプローブ・アンド・ドローグ式空中給油ポッドを装備する予定で、2010年2月空中給油ポッドを増設した機体が第401飛行隊に配備された。
空中給油機の獲得によって、滞空時間延長がなされ、作戦機の効率的な運用が可能となるとされている。また、空中給油をすることで離着陸回数が削減されることから、基地周辺の騒音低下にもつながると期待されている。さらに、KC-767の航続距離は貨物32トンで9,260km、4.5トンで14,075kmであり、航空自衛隊の戦術輸送機では最大となるため、この能力を生かした様々な活躍が期待されている。
調達購入は中期防衛力整備計画(平成13年度〜16年度)の2002年(平成14年)度予算から決まり、1年に1機ずつ計4機を調達することになった。1号機(機体番号:87-3601)は2007年(平成19年)2月〜3月の納入が予定されていたが、ボーイングによる試験が遅延し、アメリカ連邦航空局(FAA)の型式証明取得に時間がかかることとなった。これにより新たな取得予定は2007年(平成19年)7月末に延期されたが[18]、それも間に合わず、伊藤忠商事には1日あたり1,100万円の遅延賠償が発生した。2008年(平成20年)2月29日に納入されたが、防衛省は22億円(契約額の10%で規定上の上限)を伊藤忠商事に対して請求することを検討している。2号機(機体番号:87-3602)は2007年(平成19年)度前半での受領が期待されていたが、こちらも初飛行が2007年11月18日となり、2008年3月に納入された。3号機(機体番号:97-3603)は2009年3月9日、4号機(機体番号:07-3604)は2010年1月8日、それぞれ小牧基地に配備された。
防衛省に納入された各機は技術実用試験を経て配備となる。航空自衛隊では2008年度から1年をかけて、飛行開発実験団空中給油輸送機実用試験隊にて実用試験が行われた。拠点基地は小牧基地で、2009年3月26日に運用する給油・輸送部隊(第404飛行隊)が編成された。
航空自衛隊では迅速な作戦遂行のために12~15機、少なくとも8~9機を獲得しようと考えているが、追加購入調達については、予算削減を受けた16大綱及び中期防衛力整備計画(平成17年度〜21年度)で、C-2次期輸送機を同時に8機獲得する予定であったため、また、KC-767は高額なため、すでに2007年(平成17年)度予算で計上された4号機で取得を中断し、あとは運用結果を踏まえて検討することになった。2013年3月31日時点で保有数は4機である。その後、2015年10月23日には、KC-46Aの導入決定が発表された。
KC-767Jにはアメリカ海軍・海兵隊式のプローブ・アンド・ドローグ式給油装置は装備されてはいないが、こちらも運用結果を踏まえて追加装備するか検討している。
スペック
乗員 - 3名(コックピット座席は4)
全長 - 48.51m
全高 - 15.90m
全幅 - 47.57m
翼面積 -
空虚重量 -
最大輸送人員 - 192名~200名
最大燃料重量 - 91.627t(F-15戦闘機15機が満タンになる)
最大離陸重量 - 186.88t
エンジン - GE CF6-80C2B6F ターボファン2基
推力 - 272.3kN×2
最大速度 - マッハ0.86
航続距離 - 14,075km
実用上昇限度 - 13,137m