大井川鉄道ED90形電気機関車
1990年(平成2年)、大井川鉄道(現・大井川鐵道)井川線は、アプトいちしろ駅 - 長島ダム駅間の路線付替えによりアプト式運転区間を完成させた。その区間での補助機関車として1989年(平成元年)に日立製作所で製造された電気機関車がED90形である。
ED90形は各ボギー台車内にラック歯車を装備している。ED90形に搭載される電動機は合計6基であり、走行用のHS-22228形電動機4基とラック歯車駆動用の2基である。大井川鐵道は3両のED90形を保有しており、それぞれ、ED901, 902, 903の車両番号が与えられている。
ED90形に採用されている制御方式は抵抗制御である。制動装置は万全を期すため多重系統にされており、発電ブレーキを常用し、自動空気ブレーキ、保安空気ブレーキ、ラックホイール用ばねブレーキ、非常短絡発電ブレーキなどが装備されている。また、ED90形には過速度検知装置 (OSR) も装備されており、降坂時は19km/hを超過すると非常ブレーキが作動する。
ED90形は車体幅と車高の比率が井川線の他の車両よりも縦長であり、「馬面電車」のように細身の車体となっているのが特徴である。これは、井川線の狭小な車両限界にもかかわらず、様々な機器を搭載する他、アプト式区間に至るまでの区間を回送するなどの特殊な条件を満たすためである。新製時の回送には、特殊な仮台車が使用された。
車両の搬入時、そのままでは井川線の車両限界(車体幅1850mm・高さ2700mm)に抵触するため、新金谷駅構外側線からアプトいちしろ駅までは、一旦車体と台車を切り離し、小径車輪を使用した仮台車に載せて回送された。
アプトいちしろ駅の車両基地はリフティングジャッキや天井走行クレーンなどの設備が備わっており、日常の検修は全てここで行われるほか、全般検査などの重整備も車両基地で主要機器を取り外し、車両区や外注先へ搬送して実施される。車体関係の検修は基地内で行われ、特に必要がない限り車体自体を回送することはない。
車両の設計は、新製時の回送を考慮した構造としたほか、限られた施設で検修を行うため、構造の簡素化、塗り分けの単純化などに留意されている。
金谷寄り(1エンド側)の警笛は3両とも音色が異なっている。ED901はスイス連邦鉄道(スイス国鉄)のスイス国鉄Ae4/7形電気機関車に装備されていたものを譲り受けた(アプト式区間開業を祝って贈呈された)ものである。ED902は名古屋鉄道の初代モ1010形に装備されていたドイツ製のものを使用、ED903は日本製(クラリオンAW2型)を使用している。
静岡県道388号接岨峡線の市代トンネルの奥泉寄りのトンネルポータルには、ED90形がレリーフで描かれている。
ラックギアがレール上面から低い位置にあるため、同車の走行する区間の分岐器はギアとの干渉を避け、フログ部分だけでなくラックギアの位置と干渉するリード部分のレールも可動とした特殊な二段動作式の分岐器を採用している。
大井川鉄道ED90形電気機関車
ED90形電気機関車 (2007年10月 アプトいちしろ駅)
ED90形電気機関車
(2007年10月 アプトいちしろ駅)
基本情報
運用者 大井川鐵道
製造所 日立製作所
製造年 1989年
製造数 4両
運用開始 1990年
主要諸元
軸配置 AaA-AaA
軌間 1,067 mm
電気方式 直流1500V(架空電車線方式)
全長 14,020 mm
全幅 2,060 mm
全高 3,860 mm
台車 MH-108
動力伝達方式 吊り掛け駆動方式+ラックホイール駆動方式
主電動機 HS-22228形 (53kW) ×4基
(ラックホイール駆動用:HS-22337形 (175kW) ×2)
制御方式 抵抗制御、直並列2段組合せ
制御装置 非自動電磁空気単位スイッチ式
制動装置 自動空気ブレーキ・発電ブレーキ・保安空気ブレーキ・ラックホイール用ばねブレーキ・非常短絡発電ブレーキ
設計最高速度 40 km/h