マスター・コントローラー(Master controller,「マスコン」と略される)は、鉄道車両の出力・速度を遠隔制御するスイッチ装置であり、一般に鉄道車両の運転台に設置される。日本語では「主幹制御器」と翻訳される。
本来「マスター・コントローラー」「マスコン」あるいは「主幹制御器」という用語には直接制御器は含まれない。鉄道の運転・整備の現場における用語法でも「マスター・コントローラー」や「マスコン」は間接制御における主幹制御器のみを指し、直接制御器を指す場合や、双方を含めて言う場合は「コントローラー」などの語が用いられる。
概要
鉄道車両の動力源の出力自体を制御する機器は動力車に備えられ、電気車の場合は「主制御器」と称される。複数の車両による連結運転の必要上、あるいは制御機器の複雑・大型化で運転台とは別に設置されるようになった場合などには、これらの機器は運転台から遠隔操作されることとなる。そのために運転台に設置し、運転者が操作するものが「主幹制御器」「マスター・コントローラー」である。運転台からの遠隔操作を行わず、運転台で直接主回路切換えやギヤチェンジなどを行う場合の操作機器には、このような呼称は用いない。
制御器などのハンドルを「自動車のアクセルペダルに当たるもの」とする説明が見られるのは、制御器ハンドルが担う操作が主に力行(加速)だからであるが、それが常にあてはまるとは限らない。力行ハンドルとブレーキハンドルが別体のものを「ツーハンドルマスコン」や「ツインレバー型マスコン」と総称するがこれにはブレーキも含まれ、一体化させたワンハンドルなら、ブレーキもマスコンと同じハンドル(レバー)ひとつで操作するわけで、この場合でもマスコン=アクセルとはいえなくなってくる。
なお、ブレーキを制御する装置は制動弁(ブレーキ弁やマンス弁ともいう)やブレーキ設定器と呼ばれ、制御されるものは制動弁(設定器のハンドルに直結している弁本体)を直接、またはブレーキ演算装置を間接的に制御する。
直接式
モーターの電源となる、架線電流そのものを運転台に引き込み、運転者の力でカム軸を操作し、直接、断続や抵抗器の切り替えを行うものである。この方式では、運転台の制御器で主回路の切り替えが直接行われ、他に遠隔操作される制御器が存在しないため、運転台の制御器は「主幹制御器」ではなく、「直接制御器」(Direct Controller、ダイレクトコントローラー)と呼ばれる。
直接制御器を「直接制御のマスコン」「直接制御式の主幹制御器」などと表現しているものが見られることがあるが、いずれも用語の意味を理解していないことによる誤用であり、意味が成り立たない。
直接制御器の歴史は、1870年代にドイツのシーメンスによって発明された最初の電気機関車にまで遡ることができる。
電動機による電動カム軸式などに比べ、構造が単純で反応が素早い利点があり、力行中断・再力行を繰り返す路面電車などではその利点が活用されることも多い。ただ、操作力は大きく体力を要する。また、コントローラー内のスイッチ接点に架線電圧が直接かかるため、特に外装部の絶縁処理に注意を要し、さらに運転台に置かれるため、コントローラー本体の体積(ケースの容積)や接点の寸法などには物理的な限界があり、高電圧・大電流への対応や一定以上の多段化が困難である。
間接非自動制御とも共通するが、ノッチ進段を運転者の判断・感覚で手動で行うため、進段が早すぎた場合や誤ってノッチを飛ばしてしまった場合、主回路に過大な電流が流れ、保護機構が作動して力行が中断してしまうことがある。
架線電流を引き込む構造上、集電装置を持たない非電動車からの遠隔制御や、2両以上の総括制御には不適であり、連結総括制御を行わない用途の車両に用いられる。比較的小型の電気機関車や、路面電車のうち、もっぱら単行運転を行う車両などに多い。車体更新を受けている路面電車車両でも、制御器は従来の直接制御器が引き続き使用されているケースもある(土佐電気鉄道2000形電車、熊本市交通局8500形電車、鹿児島市交通局9500形電車など)。