伊豆箱根鉄道3000系電車(いずはこねてつどう3000けいでんしゃ)は、伊豆箱根鉄道駿豆線用の電車である。
概要
1979年(昭和54年)から1997年(平成9年)の間に3両編成6本(18両)が製造された。それまで駿豆線には親会社の西武鉄道(西武)や日本国有鉄道(国鉄)等の払下げ車で非冷房の17m級旧型車両が在籍しており、その車体大型化および近代化と冷房化を同時に行うために登場した。
伊豆箱根鉄道としては、1971年(昭和46年)に製造された1000系第4編成以来の自社発注車両であり、また同社としては初めてカルダン駆動方式を採用し冷房装置を搭載した車両でもある。ブレーキシステムも同社初の発電ブレーキ併用電気指令式ブレーキであり、運転操作はそれまでのマスコンハンドル・ブレーキハンドル個別型から右手操作のワンハンドル式とされた。このハンドルと運転席デスクは、右手ワンハンドルを本格採用した京浜急行電鉄800形電車と同じ仕様であるが、動作表示灯については西武仕様のものが使われている。
製造会社
製造は、東急車輛製造が担当した。以後、自社発注車両はすべて同社で落成している。
外観
先頭車前面は正面窓周辺が窪んだ他事業者車両にはない独特のデザインで、車体幅も2,900mmに拡大し裾を絞り込んでおり、戸袋窓と側窓の幅を揃えた調和の取れたデザインとなっている、また塗装配色においても、かつての西武車両の標準塗装であった赤とベージュのいわゆる「赤電」塗装から、伊豆の空と富士山の白雪をイメージした塗装とされた。
特に青は、別名「ライオンズブルー」と呼ばれており、のちに親会社の西武でも6000系や20000系で配色位置が異なるが、同じ色を使用するようになった。
内装
一次形は暖色系でまとめ、内張・天井板は薄いベージュ色のコルク模様、座席モケットはワインレッド、床敷物は茶色で明るい落着いた感じにした。側窓と戸袋窓は視覚的に統一し、側窓は上段下降下段上昇の二段窓とした。下段窓は当初は100mmまで上昇できるようになっていたが、その後開閉不能とされた。上段窓はバランサー付き下降窓とした。クモハ3000形とクハ3500形の通路には当初横引戸が設置されていたが現在では撤去されている。
二次形は座席モケットがオレンジ色とされたが、これは後に一次形にも波及した。シルバーシート(現在の優先席)は灰色として他の座席と区別されている。
座席配置においては、基本的に通勤・通学と観光主体の兼用路線であることからセミクロスシートが採用されている。しかし、後述での理由で第1編成のモハ3002は扉間転換クロスシートに改造された。二次形も同じく後述での経緯により一部座席配置が変更されたが、ほぼ同じ配置である。最終編成である第6編成は座面形状はバケットタイプとされた。
主要機器
駆動方法はこれまで吊掛駆動のみの車両であった同社で初めて中空軸平行カルダン駆動方式を採用した。主電動機は日立製作所HS-836-Krb型で出力は120kW(端子電圧375V時)[注 2][注 3]、歯車比は86:15=1:5.73である。
制御装置は1000系で実績のあった三菱電機製のABFM-168-15MDH系電動カム軸抵抗制御式多段型制御装置を採用した。この制御装置は今後のダイヤ変更や乗り入れ等を考慮し、起動加速度を切替える機能が同社で初めて装備された。
制動装置は日本エヤーブレーキ(現:ナブテスコ)製のHRD1-D型電空併用電気指令式電磁直通ブレーキを搭載した。以後、同社では、自社発注車ではこのブレーキ方式が標準となり、その後、同形式の二次形への増備より遅れ込め制御も追加されたものを搭載している。
補助電源装置においては、一次形は冷房装備の設置や主制御器の無接点装置を交流電源化にした関係上、従来の電動発電機に代わりブラシレスの三相交流440V 120kVAの出力のものを搭載しているが、二次形において車体のステンレス化と共に機器の軽量・メンテナンスフリー化を考慮して一次形と同能力の静止形インバータ(SIV)に変更し搭載された。また、バッテリーで駆動するバックアップ用の小容量のSIVを搭載して冗長性を高めている。
空気圧縮機は一次型ではHB2000CB形(容量:2000l/min)を搭載しているが、二次型では同容量のHS-20形に変更して、静音性を向上させている。
パンタグラフは中間電動車であるモハ3000形に2基搭載している。第5編成までは工進精工所製のKP62AS形菱形パンタグラフを装備したが、最終編成である第6編成では5000系後期車及び7000系との部品共用化を図るため、東洋電機製の下枠交差型パンタグラフのPT48系に変更し搭載された。
電動車の台車は住友金属工業製のペデスタル式軸コイルバネ型ダイヤフラム式空気ばね台車FS372N形、制御車はFS072N形である。これらの台車は親会社である西武鉄道の当時の標準台車であった西武101系や2000系等に採用されたものを同社向けに改良を行い採用した。
冷房装置は、親会社である西武鉄道の101系を始めとした実績のある、三菱電機製の42,000kcal/hの能力を持つ集中式冷房装置CU-72C形である。
ワンマン運転対応改造
2008年頃に全編成の運転席にワンマン表示板、ワンマン・ツーマン切替スイッチ、戸閉め放送スイッチが設置された。2009年4月1日から駅収受方式でのワンマン運転が開始され、運転台の右側に「ワンマン」と表記されたプレートが設置された。
伊豆箱根鉄道3000系電車
基本情報
運用者 伊豆箱根鉄道
製造所 東急車輛製造
製造年 1979年 - 1997年
製造数 6編成18両
投入先 駿豆線
主要諸元
編成 3両編成(MT比2:1)
軌間 1,067 mm
電気方式 直流1,500V
(架空電車線方式)
最高運転速度 85 km/h
設計最高速度 100 km/h
起動加速度 2.4 km/h/s (高加速SW未投入時)
3.0 km/h/s (高加速SW投入時)
減速度(常用) 3.5 km/h/s
減速度(非常) 4.5 km/h/s
編成定員 455名(座席200名)
[3001F: 441名(座席192名)]
〔439名(座席188名)〕
車両定員 148名(座席64名)
〔143名(座席60名)〕※Mc・Tc車
159名(座席72名)
[モハ3002: 145名(座席64名)]
〔153名(座席68名)※M車
自重 40 t 〔38 t〕(Mc・M)/30 t 〔28.3 t〕(Tc)
編成重量 110 t 〔104.3 t〕
全長 20,000 mm
全幅 2,900 mm 〔2,950 mm〕
全高 4,246 mm 〔4,241 mm〕
台車 住友金属工業FS372N(Mc・M車)
FS072N(Tc車)
主電動機 直巻電動機
日立製作所HS-836-Krb
日立製作所HS-836-Frb
主電動機出力 120 kW/個
駆動方式 中空軸平行カルダン
歯車比 86:15=1:5.73
編成出力 960 kW
制御方式 発電制動併用抵抗制御
制御装置 三菱電機ABFM-168-15MDHA
〔三菱電機ABFM-168-15MDHC〕
制動装置 発電制動併用電気指令式空気制動
(HRD-1D)
保安装置 伊豆箱根式ATS
備考 〔〕は2次型(ステンレス車体)の数値