F-15Jは、アメリカ合衆国のマクダネル・ダグラス社(現ボーイング社)が開発したF-15C/Dイーグルを、三菱重工業が中心となり、航空自衛隊向けにノックダウン及びライセンス生産した戦闘機である。
航空自衛隊の第3次F-X計画により、米マクドネル・ダグラスF-15C/Dの導入が決定。本機は航空自衛隊の運用に合わせてライセンス国産化された日本仕様機である。
三菱重工業を主契約社とし、単座型のF-15J165機と複座型F-15DJ48機の計213機が製造された。これは開発国であるアメリカに次ぐ保有数となっており、アメリカ国外での使用機総数356機の約6割を占めている。 2013年3月末時点で201機を運用しており、90%以上の高稼働率を維持している。一機当たりの調達価格は約120億円。
基本性能の優秀さと、高い拡張性を生かした独自の近代化改修プログラムにより能力向上が図られ、導入から30年以上経た現在も日本の主力戦闘機として防空任務に就いている。
なお、航空自衛隊と米空軍のF-15に外見的な大きな違いはなく、電子戦関連アンテナ類の有無や形状の違い、国籍標識(日の丸)や迷彩塗装の色調などが主な識別点として挙げられる。
1977年12月28日に行われた国防会議にて、航空自衛隊の次期主力戦闘機としてF-15J/DJを制式採用した。アメリカ側はこのF-15導入計画を「ピースイーグル計画」と呼称し、同年3月29日に予算が下りることを前提として三菱重工業、マクダネル・ダグラス間でライセンス契約の調印がなされた。そして、1978年度予算で初めて23機の調達が決定した。
1978年4月、直ちに生産内示が出され、日本の技術者はマクダネル・ダグラス社のセントルイス工場へ派遣された。7月には国産を承認された部品の生産を支援するため、アメリカの企業から40名の技術者が派遣された。1980年7月になってマクダネル・ダグラス社のセントルイス工場で、航空自衛隊に最初の機体が引き渡された。10月にエドワーズ空軍基地での29回の飛行検査後一旦アメリカ空軍に返され、3月1日に沖縄県の米空軍嘉手納基地に空輸、この時初めて2機のF-15Jに日の丸の国籍標識が入った。
航空自衛隊パイロットの適合訓練の終了を待った約1か月後の3月27日、アメリカ空軍のパイロット2名によって嘉手納から岐阜基地へ空輸された。そこで到着したばかりの2機のF-15Jをバックに、防衛庁関係者や企業関係者による記念撮影が行われている。なお、この最初の2機(02-8801/802)は三菱重工で再組み立てを受けている。続く8機(12-8803~22-8810)はノックダウン生産、残りは部品を国産化したライセンス生産で155機(22-8811~82-8965)を調達した。当初、F-15は4個飛行隊分に当たる100機を10年かけて調達する計画でスタートした。昭和56年度中期業務見積りを承認した1982年の国防会議において155機へ修正、1985年に187機、1990年に223機へと増勢されていったものの、中期防衛力整備計画により1992年に210機へと削減され、1995年に213機となった。
J型は1998年11月4日の165号機、DJ型は1999年10月25日の48号機(92-8098:098号機)の生産で終了し、合計213機の調達となった。F-15DJはJ型と同時に、最初の12機(F-15DのBlock 26相当、12-8051~52-8062)を完成品輸入、8機(82-8063~92-8070)をノックダウン生産、28機(02-8071~92-8098)をライセンス生産で調達した。
製造に関わった国内企業
企業名
三菱重工業(主契約社) 前・中部胴体、機体最終組立て
川崎重工業 主翼、後胴、水平・垂直尾翼
住友精密工業 脚部
富士重工業 前脚・主脚扉、チタン合金ケミカルミーリング加工
日本飛行機 パイロン、AAMランチャー
新明和工業 機外燃料タンク
石川島播磨重工業 F100エンジン
日特金属工業株式会社
(現在は住友重機械工業に吸収合併) 20mm機関砲システム
三菱電機 火器管制レーダー AN/APG-63、UHF無線機 AN/ARC-164、UHF/DF装置 OA-8639/ADR、インディケーターグループ OD-60/A、姿勢方位基準装置 AN/ASN-108、対気諸元計算装置 AN/ASK-6、セントラルコンピューター CP-1075/AYK
日本電気 TACAN装置 AN/ARN-118(v)
日立製作所 データリンク装置 J/ASW-10
東洋通信機 IFF応答装置 AN/APX-101(v)、IFF質問装置 AN/APX-76A(v)
島津製作所 ヘッド・アップ・ディスプレイ AN/AVQ-20
東京芝浦電気 リードコンピューティング・ジャイロ CN-1377/AWG、慣性航法装置 AN/ASN-109
東京計器製作所 レーダー警報受信機 J/APR-4
当初の調達価格は約70億円とされたが、最終的に101億5600万円まで上昇した。
F-15J/DJは、F-104J/DJ飛行隊である200番台の飛行隊、及びF-4EJ飛行隊である300番台の飛行隊に配備された。1981年(昭和56年)12月7日に、ルーク空軍基地でアメリカ空軍要員と共に訓練を受けた操縦士が中心となり、宮崎県新田原基地に臨時F-15飛行隊が編成され、1982年(昭和57年)12月21日に第202飛行隊(元F-104J装備)に改編した。F-15J要員の転換訓練部隊でもあった第202飛行隊には、複座型であるF-15DJが集中的に配備された。以後、1993年(平成5年)までにF-104J/DJを装備する千歳基地の第203飛行隊は1984年12月に、第204飛行隊が1984年3月に、第201飛行隊、F-4EJ装備部隊の第303飛行隊が1987年12月に、第304飛行隊が1990年3月に、第305飛行隊が1992年7月に、F-4EJ改を装備する第306飛行隊が1997年3月にF-15J/DJ飛行隊に改編した。
飛行教導隊も1990年(平成2年)に5機のF-15DJを受領し、使用機をT-2から更新した[22]。 1997年(平成9年)3月には第306飛行隊が第8飛行隊(支援戦闘機部隊)にF-4EJ改を譲ってF-15J/DJ飛行隊へと改編し、8個飛行隊編成となった。その後、T-2での教育を終えた操縦士の機種転換訓練を行ってきた第202飛行隊は、教育飛行隊の新設にともない2000年9月に解隊され、先行してF-15臨時飛行教育航空隊が1999年(平成11年)8月3日に発足、2000年(平成12年)10月には正式に第23飛行隊となり、現在は7個飛行隊+1個教育飛行隊となっている。
F-104Jが実戦部隊から退いた1986年(昭和61年)からは主力戦闘機として使用している。なお、事故で12機が失われ(喪失事故参照)、2014年3月31日時点で保有数は201機である。
航空自衛隊機は製造番号がアメリカ空軍と同じ7桁表記(xx-xxxxと表記は同じだが、番号の持つ意味が異なる)になっているが、下3桁が機体記号であり、この3桁は各機体の種類別に割り当てられた番号で、F-15Jは801-965、F-15DJは051-098である。
2014年現在、8個飛行隊及び飛行開発実験団でF-15J/DJが運用されている。
千歳基地:第2航空団 - 第201飛行隊、第203飛行隊
百里基地:第7航空団 - 第305飛行隊
浜松基地:第1術科学校
小松基地:第6航空団 - 第303飛行隊、第306飛行隊
岐阜基地:飛行開発実験団
築城基地:第8航空団 - 第304飛行隊
新田原基地:飛行教導隊、飛行教育航空隊 - 第23飛行隊
那覇基地:第83航空隊 - 第204飛行隊
F-15J/DJはF-15C/Dを原型とするが、アメリカ議会から批判を受けた国防総省の決定により提供されなかったTEWS(戦術電子戦システム)については、国内で独自開発したJ/TEWSで代替している。J/TEWSは国産のJ/ALQ-8電波妨害装置とJ/APR-4レーダー警戒受信機、ライセンス生産のAN/ALE-45J射出型妨害装置(チャフ・フレアディスペンサー)で構成される。アメリカ空軍向けF-15C/Dでは左の垂直尾翼先端にIRCM装置が内蔵されているため左右非対称だが、F-15J/DJの垂直尾翼は左右対称になっており、外見上の大きな識別点にもなっている。
原型機のF-15C/Dは、F-15A/Bに機内燃料タンクの増設やFAST PACKと呼ばれるコンフォーマル・フューエル・タンクの搭載能力付加といった改良を加えた機体であり、F-15J/DJも機内燃料タンクなどの配置はこれに準じている。しかしながら、航空自衛隊はコンフォーマル・フューエル・タンクを保有していない
F-4EJ導入の際にも問題となった地上攻撃能力や空中給油能力について当時の国会で野党の追及を受けたが、「対地攻撃専用の計算装置などを有していない」「搭載装置から見ても、他国侵略的・攻撃的脅威を与えるものではない」、「空中警戒待機は有効ではあるがF-4が主力の時期では不要との判断だったが、航空軍事技術の著しい発展のすう勢から、F-15が主力となろう1980年代後半は、有事の際の空中警戒待機の必要が十分予想されるので撤去は望ましくない」などの答弁の結果、撤去はされていない。
アメリカ国防総省は当時F-15が主力機であったため日本に対する技術情報の開示を規制したが、これは段階的に解除された。日米装備・技術定期協議(S&TF)において旧防衛庁と国防総省の間で交渉が行われ、1981年にはTEWS以外の複合材料やF100ターボファンエンジンといった技術へのアクセスは許可された。なお、独自装備の一つとしてBADGEシステムから時分割データを受信する日立製作所製「J/ASW-10」を搭載している。
1992年(平成4年)10月17日、F-15J(72-8884)が飛行訓練中に操縦不能となり操縦士は緊急脱出したものの、脱出時に頭部を風防に強打して死亡する事故が発生した。対策として事故以降、射出時にキャノピーを破砕するキャノピーブレイカーを座席上部左右に追加装備している。
訓練用に調達した複座型のF-15DJは、コックピット後部に搭載するALQ-8などの一部機器を省略してあるため、電子戦能力を要する任務の際は胴体下にAN/ALQ-131(ドイツ語版)電子戦ポッドを外部搭載する。
兵装は当初、F-15C/Dと同じく「AIM-9」及び「AIM-7」、固定武装として「JM61A1」を搭載する。これらはいずれもライセンス生産での調達で、電子機器類の技術移転が少なかったこともあり、国内メーカーに割に合わないとの不満を生じた。但し、F-15と同時に国産化されたAIM-9Lは、F-4EJ及びF-4EJ改にも装備されている[39]。その後、短距離空対空ミサイルについてはAIM-9の後継として開発された国産の「90式空対空誘導弾(AAM-3)」、およびその後継である「04式空対空誘導弾(AAM-5)」(改修機のみ対応、後述)を運用するように改装された。また、中距離空対空ミサイルは、AIM-120シリーズではなく、AIM-7の後継として開発された「99式空対空誘導弾(AAM-4)」に更新されることとなった。
エンジンはプラット・アンド・ホイットニー社製の「F100-PW-100」をIHI(旧石川島播磨重工業)がライセンス生産した「F100-IHI-100」2基を搭載している。生産末期には整備性・耐久性がより向上した「F100-IHI-220E」が標準搭載され、それ以前に生産された機体にも順次換装が進められている。
三菱重工による生産中に何度か機体仕様が変更されており、一般に導入初期の機体をPre-MSIP機(MSIP非適用機)、導入中期からの機体をJ-MSIP機(多段階改良計画適用機)と呼称している。
J-MSIP機の近代化改修、J-MSIP機の近代化改修計画は計画当初は改修の進捗状況によって形態一型と形態二型に分けられており、いずれも三菱重工業を主契約としていた。実際に機体を改修する予算計上が進むにつれ、当初の形態一型と二型に区分された改修計画が変更されたため、この区分は正式には使われなくなったが、実際には旧区分の多くの改修項目を踏襲して改修するため、本項目では計画の推移を判り易くするため、便宜上、形態一型相当と二型相当の呼称を使用して記述する。
中期防衛力整備計画(平成17~21年度)においては、当初は期間中に26機を量産改修する予定だった。ところが米国のF-22Aの輸出規制措置により、老朽化したF-4EJ改を代替する予定だった第4次F-X機の選定を2008年(平成20年)以降に先送りとしたため、J-MSIP機の近代化改修でF-4EJ改の減勢による防衛力低下を補う必要が生じた。このため2008年(平成20年)度と2009年(平成21年)度に、当初形態二型に予定されていた統合電子戦システム搭載と次期輸送機の調達を先送りして浮かせた予算を多数の近代化改修に割り当て、これに合わせて2009年(平成21年)度に中期防を改訂して改修機数を48機とした。2010年(平成22年)度からは、先送りされた統合電子戦システムの搭載予算が「F-15の自己防御能力向上」名目で別途計上されている。この時点では4個飛行隊分の88機を対象に近代化改修を行うとされていたが、中期防衛力整備計画(平成26~30年度)における「F-15の近代化改修」機数が26機と明記されたため、J-MSIP機の近代化改修機数は98機に増加している。
2014年(平成26年)8月現在、改修機数はMSIP機全機である102機を予定している
航空雑誌等ではこれらの改修機のことを纏めてF-15J改と呼んでいる。また、海外では「近代化」を意味する「modernized」の頭文字のMが付加されてF-15MJと呼ばれている。
乗員: 1名(DJ型は2名)
全長: 19.4m
全高: 5.6m
翼幅: 13.1m
翼面積: 56.5m2(C)
空虚重量: 12,973kg
最大離陸重量: 30,845kg
動力: プラット・アンド・ホイットニー/石川島播磨 F100-IHI-100(及びF100-IHI-220E) ターボファンエンジン
ドライ推力: 7922kg (17,450ポンド)[70] × 2
アフターバーナー使用時推力: 10,640kgf (25,000ポンド) × 2
性能
最大速度: M2.5
巡航速度: M0.9
フェリー飛行時航続距離: 3,450km
航続距離: 4,630km (増槽)以上
実用上昇限度: 19,000m
増槽装備時航続距離:4,630km以上
戦闘行動半径:1,900km
武装
固定武装: JM61A1 20mmバルカン砲×1(装弾数:940発)
ミサイル:
短射程空対空ミサイル
AIM-9L サイドワインダー
90式空対空誘導弾(AAM-3)
04式空対空誘導弾(AAM-5)(改修機対応)
中射程空対空ミサイル
AIM-7F/M スパロー
99式空対空誘導弾(AAM-4)(改修機対応)
AIM-120 AMRAAM(改修機対応、試験運用にて使用実績あり)
爆弾:
Mk.82 500lb通常爆弾:無誘導