BEC819系電車(BEC819けいでんしゃ)は、九州旅客鉄道(JR九州)の近郊形交流用蓄電池駆動電車。「"D"UAL "EN"ERGY "CHA"RGE TRAIN」の頭文字をとった「DENCHA」の愛称がある。
JR九州が非電化区間で運行しているキハ40系等の気動車の経年置き換えを目的として開発した。世界初の交流方式による蓄電池電車となった817系改造の試作車による試験結果を踏まえ、実用化した量産車両として製作されるものであり、車体・接客設備は817系2000番台をベースとしつつ、305系からのフィードバックも行われている。
2014年11月に投入を公式発表、2016年1月29日に詳細が発表された。車体の塗装や内装デザインは他のJR九州の車両同様水戸岡鋭治が担当している。
車体は『人と地球の未来にやさしい』をコンセプトとし、817系をベースに305系で採用された電気式戸閉装置「スマートドア」(押しボタン式半自動ドア)や「マルチサポートビジョン」(大型液晶ディスプレイ)を導入しており。外装には817系2000番台の白色をベースに乗降扉に「地球をイメージ」した青色を配色しており、乗降扉の脇には817系と同様の「CT」のシンボルマーク(水色)と「819 DENCHA DUAL ENERGY CHANGE TRAIN」のロゴが青色で描かれている。編成記号はZが用いられている。1編成(2両)当たりの重量は70 t で、設計最高速度は120 km/h。
817系と同様のアルミ合金製車体で、前面は貫通形(クハBEC818形に貫通幌設置)であり、前照灯はLED化されており、817系1100番台以降と同じく大型のLED行先表示器を前面と側面に設置している。
主回路制御方式は817系と同じく交流回生ブレーキ付きの主変換装置(PWMコンバータ+VVVFインバータ)を搭載したVVVFインバータ方式を採用している。主回路の構成は架線からの交流20,000V 60Hzを主変圧器[注 2]を介して降圧した後にPWMコンバータで直流1600Vに変換し、その後にVVVFインバータで三相交流にして誘導電動機を制御するが、PWMコンバータとVVVFインバータの間には主回路用蓄電池と補助電源装置が繋がっており、両者とも直流1600Vの電力を使用している。コンバータとインバータ各1基で2基の主電動機を制御する1C2M構成を1群とし、それを2群としたものを主変換装置に搭載しており、1群に不具合が発生した場合には、それを切離して別の1群で運転ができる片群運転が可能となっている。
主電動機は保守性の向上と塵埃の浸入を防止を図るため、電動機内部を外気から遮断した全閉形外扇方式の三相かご型誘導電動機のMT404K(出力95kW/個×4)を採用しており、817系より出力を絞っている。
主回路用蓄電池は主回路用蓄電池箱に収められており、クハBEC818形にマンガン酸リチウムイオン電池CH75-6を搭載している。それを72個直列に接続されたモジュールを3並列とした構成としており、モジュール自体を1つの主回路用蓄電池箱にまとめて、それを3つ床下に搭載した「3バンク」の構成としている。各バンク入力部には電磁接触器を設置しており、バンク内の主回路用蓄電池に異常が発生しても、主変換装置からの指令により異常が発生したバンクの電磁接触器を開放することで、残りの正常なバンクでの運転継続が可能となっている。各バンクの主回路用蓄電池箱は、箱内の温度の均一化や冷却のため、箱にファンを搭載しており、817系の識別を目的に青色に塗装され、その上部に緑色表示灯を6つずつ装備して点灯させることで、夜間での識別を可能としている。搭載されている主回路用蓄電池の総容量は、定格電圧1600V(最大1814V)、定格容量383.6kWh(新製時点)となっており、817系試作車よりも高電圧大容量となっている。そのため、制御車の車両重量は817系よりも約7.5t増加しており、主回路用蓄電池が床下のスペースをほぼ占めているため、非常用空気タンクなどの機器配置を見直しており、817系で搭載されていた補助電源装置や電動空気圧縮機などはクモハBEC819形に搭載されている。その他にも、床上に設置されていた客室サービスや安全を損なうことがない機器類を連結側の車体妻面に配置した機器室に収納している。
主回路システムにおいては、「架線走行モード」と「蓄電地走行モード」の2つの走行モードがあり、架線走行モードでは、電化区間はパンタグラフを上げて、屋根上にある交流遮断機の真空遮断機(VCB)を入りの状態とするモード、蓄電地走行モードでは、非電化区間はパンタグラフを下げて、屋根上にある交流遮断機の真空遮断機(VCB)を切りの状態とするモードであり、ともに主回路用蓄電池は主回路に接続されている。電化区間では、架線走行モードとし、加速中は通常の交流形電車同様に架線からの給電により主電動機を駆動させ、惰力時ならびに減速時には、架線から設定された充電率に到達するまで、主回路用蓄電池に小電流での充電を自動的に行い、非電化区間では、蓄電地走行モードとし、主回路蓄電池からの給電により走行、減速時には回生ブレーキから発生した電力を主回路充電池に充電を行う方式となっており、非電化区間の走行後の電化された駅での停車中において、主回路用蓄電池に短時間で大容量の電力を供給する急速充電を行うことで充電時間の短縮を図ることが可能であり、10分間の充電で約90kmの走行が可能である。これにより、気動車からの置き換えにより動力費を5割削減することを目標とするという。
補助電源装置は出力80kVAの静止形インバータを採用しており、PWMコンバータで変換した直流1600Vの電力を三相交流440Vに変換して電力を供給している。電動空気圧縮機はメンテナンスの省力化を図るため吐出量が約700L/minのオイルフリーコンプレッサを採用している。
集電装置(パンタグラフ)は下げ定位の空気上昇式のシングルアーム式を採用しており、クモハBEC819形の屋根上に設置されている。設置されている部分を低屋根構造とすることで、狭小断面トンネルでも走行可能としており、パンタブラフの折り畳み高さ3980mmに抑えている。また、上部のすり板を4枚とすることで、架線からの急速充電中において、すり板1枚当たりに流れる電流値を抑制している。
台車は空気ばね式のボルスタレス台車であるDT409K(制御動力車)・TR409K(制御車)であり、車輪直径等の寸法・歯車比は817系のDT404K・TR404Kと同じである。前者は電動機の形式変更に伴って電動機の取付け部分の構造が変更されており、後者は制御車の床下に大容量の主回路蓄電池箱を搭載したことによる重量増(約7.5t)となったため、軸箱支持装置に電動車用の円錐積層ゴム式に変更されており、台車枠に取付けられている差圧弁やユニットブレーキも電動車用のものが使用されている。
ATSは新製時から、JR九州が2011年頃から設置を進めているATS-DK形を装備。ATS-SK形の機能に加えて、省令に基づくパターン連続照査に対応した形になっている。
運転台の主幹制御器(マスターコントローラー)は左手操作のワンハンドル式である。正面に12.1インチのワイド乗務員支援モニタを装備しており、車両の制御状態・サービス機器の状態・主回路蓄電池の温度や電圧などの管理や監視を行っている。側面には蓄電池への急速充電を開始するためのスイッチや蓄電池走行起動スイッチなどを配置しているが、その他の機器配列については817系2000番台と同じである。
電化・非電化区間の切り替えには『パンタグラフインターロックシステム』と呼ばれるシステムを使用している。これは地上に設置されたIDタグを使って信号を送り、乗務員支援モニタにパンタ上げ・下げ指示の表示および、運転機器に力行禁止指令・解除を送る。
非電化区間突入の際は、IDタグ(上り、パンタグラフ下げ)により、パンタグラフ下げの指令をモニターに注意喚起を出すとともに、その後に運転停車してパンタグラフを降下させずに力行(加速)させても、力行禁止の指令が働き車両を停止させ続ける。運転士が停車中にパンタグラフを手動操作で下げることで、力行禁止が解除されるが。万が一、パンタグラフを上げたまま非電化区間に突入した場合は、建築限界などによりパンタグラフを損傷しないよう、別のIDタグにより非常制動および、強制パンタ下げが行われる。
一方電化区間突入の際は、IDタグ(下り、パンタグラフ上げ)により、パンタグラフ上げの指令をモニターに注意喚起を出すとともに、その後に運転停車してパンタグラフを上昇させずに力行(加速)させても、力行禁止の指令が働き車両を停止させ続ける。運転士が停車中にパンタグラフを手動操作で上げることで、力行禁止が解除されるが。万が一、パンタグラフを下げたまま電化区間に突入した場合でも、走行中にはパンタグラフは損傷しないため、損傷の心配はない。
座席は817系2000番台・3000番台や305系と同様、合板(プライウッド)のシートにモケットを貼り付けたオールロングシート。座席形状・つり革配置なども817系2000・3000番台とほぼ同じであるが、座面は305系と同様の厚みが増したものとなったほか、枕木方向のつり手が増設されている。扉側の仕切り板は305系に準じたポリカーポネート製の大型のものとされた。
トイレはクハBEC818形の3位側に設置されており、汚物処理装置には清水加圧式が採用されている。
側扉上にはこれも305系と同様の次駅等の案内を行う案内表示器(マルチサポートビジョン)が千鳥状に設置されている。また、各車両1台ずつ設置されている車端部の機器室壁面にあるMSVには、次駅等の案内と合わせて架線・蓄電池・主電動機等の間のエネルギーの流れが表示される。ワンマン運転対応であるが運行予定区間では駅収受式が採用されており、整理券発行機・や表示器等の車内収受式ワンマン運転用機器は準備工事のみ行われている。
クモハBEC819(Mc)+クハBEC818(Tc)の2両編成。車両定員はクモハBEC819が座席40名/立席93名、クハBEC818が座席40名/立席91名で編成定員は合計264名。JR九州の在来線旅客車両では初のアルファベットが入る形式名になった。
クモハBEC819形
2両編成の若松方に連結される制御電動車。主電動機・主変圧器・主変換装置(CI)・補助電源装置(SIV)・電動空気圧縮機(CP)・制御用蓄電池を搭載。
集電用のパンタグラフを搭載するがパンタ部分は非電化区間での運用に備え低屋根構造(パンタ折り畳み高さ3980mm)となっている。
クハBEC818形との連結側車端部に機器室を設置。
クハBEC818形
2両編成の直方・折尾方に連結される制御車。主回路用蓄電池(Bt)を搭載。
クモハBEC819形との連結側車端部にバリアフリー対応の清水空圧式洋式トイレと車椅子スペースを設置。
2016年(平成28年)4月に1編成2両が落成し、試運転を経て、同年8月24日に車両が直方車両センターで報道陣に公開され、同年10月1日には筑豊本線直方駅 - 中間駅間で試乗会が行われたのち、同年10月19日に筑豊本線(若松線)折尾駅 - 若松駅間での営業運行を開始した。運行開始初日には若松駅で出発式を行った。導入当初は2両1編成のみでの運用で、同区間で昼間時間帯に火曜日以外の各日1日4往復運行した。
続いて2017年(平成29年)2月13日・24日に下松から量産車が3編成ずつ甲種輸送され、この6編成は同年3月4日のダイヤ改正より営業運転を開始した。これにより若松線を走行する全列車がBEC819系での運転となった。同ダイヤ改正では若松線の列車の多くが若松駅 - 直方駅間の運転となり、折尾駅を経由し非電化区間と電化区間を直通する営業運転も開始された。また、篠栗線を含む直方駅 - 桂川駅 - 博多駅間でも運用されるようになり、当形式だけでなく、従来の817系との連結運用も存在する。
なお、非電化区間走行後の蓄電池への充電は、電化されている折尾駅で行われ、その際には非電化区間では折り畳んでいた集電装置を上昇させる。
若松線を導入路線に選定した理由については電化区間との直通運用が可能な路線であることの他に「蓄電池で走行する路線長が搭載可能な蓄電池の容量に適している」「北九州市が世界の環境首都を目指しており、市内を走る若松線への導入がふさわしい」としている。
同形車
東日本旅客鉄道(JR東日本)ではBEC819系をベースに耐寒耐雪対応等のカスタマイズを行ったEV-E801系を2017年3月4日から奥羽本線・男鹿線(秋田 - 男鹿間)で営業運転している。
製造所 日立製作所
主要諸元
編成 2両
軌間 1,067(狭軌) mm
電気方式 交流20,000V 60Hz
(架空電車線方式/非電化区間においては蓄電池駆動)
最高運転速度 120 km/h
設計最高速度 120 km/h
起動加速度 電化区間 2.6 km/h/s
非電化区間 1.5 km/h/s
編成定員 264人
車両定員 131人 - 133人
車両重量 35.5t - 36.6t
編成重量 72.1t
最大寸法
(長・幅・高) 20,000 × 2,950 × 4,096 mm
(パンタ折り畳み高さ3,980mm)
車体材質 アルミニウム合金
台車 円錐積層ゴム式ボルスタレス台車
DT409K・TR409K
主電動機 かご形三相誘導電動機
MT404K形
主電動機出力 95kW
駆動方式 TD継手式中実軸平行カルダン駆動方式
歯車比 6.50(14:91)
編成出力 95kW×4=380kW
制御装置 IGBT素子VVVFインバータ制御
制動装置 回生ブレーキ(全電気式)併用電気指令式空気ブレーキ
保安装置 ATS-DK、EB、乗務員無線、防護無線