JR東海383系電車
383系電車(383けいでんしゃ)は、1994年(平成6年)に登場した東海旅客鉄道(JR東海)の直流特急形車両。
概要
中央西線 - 篠ノ井線系統の特急列車用として、1972年(昭和47年)から使用され、老朽化が進んだ381系電車を置き換える目的で開発された振子式電車である。曲線通過時の車体傾斜にコンピュータ制御を採り入れた制御付自然振子方式を採用し、自然振子方式の381系に比べ曲線通過性能や乗り心地を改善させた。
1994年(平成6年)8月に試作車両が落成し、各種試験走行の後1995年(平成7年)ゴールデンウィークから臨時特急「しなの」で営業運転を開始した。1996年(平成8年)6月より量産車が落成し、定期列車で本格的に運用を開始した。1995年通商産業省(現・経済産業省)グッドデザイン商品(現・日本産業デザイン振興会グッドデザイン賞)選定、1996年鉄道友の会ローレル賞受賞。
車種体系
編成中の電動車と付随車が同数となるMT比 1:1 の列車組成とし、電動車は全て偶数向き(東海道本線上での下り神戸方)に連結される。主回路を構成する電装機器をすべて1両の電動車に搭載する 1M 方式を採用し、各車両の形式はすべて「383」である。偶数形式(382形)は存在しない。
車体
ステンレス製の軽量構体を採用し、運転台を含む前頭部のみ普通鋼製である。外部塗色はステンレス地肌の無塗装で、車体側面中位にピンストライプ様の意匠としたブラウンの帯を、正面 および 客室窓直下の車体全周にオレンジ色の帯を配する。客室窓および正面窓枠周囲は黒色である。客用扉は、主に自由席として使用する車両には片側2か所、他の車両は片側1か所に設ける。車体断面は客窓部分のみが垂直で、屋根肩と窓下裾部を車体傾斜に備えて大きく絞っている。
輸送状況の変化に応じ複数の編成を併結・切り離しする運用方をとるため、中間に連結する必要のある運転台付車両の前頭部には貫通路が設けられ、貫通扉として両開き式のプラグドアを備える。常に長野方先頭に連結される運転台付グリーン車クロ383形(基本番台)のみは貫通扉を設けず、先頭部には前面展望に配慮したパノラマ様式の座席を設ける。
内装は、グリーン車は青色基調、普通車はグレー基調の配色である。従来車両に比べ居住空間の拡張がなされ、座席は前後の間隔(シートピッチ)をグリーン車で 1,200 mm、普通車で 1,000 mm に拡大したほか、座面の幅もグリーン車で 460 mm 、普通車で 455 mm を確保している。側窓は天地寸法を 850 mm に拡大している。
バリアフリー対応として、モハ383形(基本番台)に車椅子対応設備を設けるほか、客用扉にドアチャイムを設置する。
制御系・電装系
主回路制御はVVVFインバータ方式を採用し、整流素子にGTOサイリスタ(4500V/500A)を用いた主変換装置は東芝製である。集電装置はシングルアーム式パンタグラフのC-PS27形で、いずれもJR東海の在来線用車両では初の採用である。
曲線通過対策として搭載された本系列の車体傾斜機能は、台車に搭載したベアリングガイド式の車体傾斜機構をコンピュータ制御の空気シリンダで動作させる制御付き自然振子方式である。車体傾斜を曲線走行時の超過遠心力のみに依存する381系の自然振子方式にみられた「振り遅れ」「揺り戻し」を解消し、乗り心地を改善して曲線通過速度の向上を図った。最高速度は 130 km/h 、曲線通過速度は最大で本則+35 km/h(半径600 m 以上)である。
パンタグラフはシングルアーム式で車体の屋根に直接搭載され、制御付き振子機能の使用は架線の対策がなされた名古屋 - 松本間[注 3]に限られる。パンタグラフ折りたたみ高さは 3,850 mm まで下げられ、建築限界が中央本線中津川駅以東より小さい身延線への入線も振子機能を停止した条件下で可能である。
台車
C-DT61形台車
C-DT61形台車
C-TR245形台車
C-TR245形台車
枕ばねに空気ばねを用いたボルスタレス台車 C-DT61 形(動力台車)C-TR245 形(付随台車)で、軸箱支持は円錐ゴム支持、振子装置としてベアリングガイド式の車体傾斜機構をもつ。曲線通過時に線路への横圧を抑えるための機構として、片側の軸箱(車体端側)の支持剛性を柔らかい設定として車軸を常に線路と直角に保つ自己操舵機構を搭載する。
当系列の自己操舵機構は、1990年頃から東京大学生産技術研究所の須田義大助教授(当時)らの協力のもと開発が進められた。
1991年に完成した試作自己操舵台車C-DT955形2台は神領電車区のモハ380-58に装着され、1991年12月から営業運転に充当し長期耐久試験に供された。当時の自己操舵機構は、381系電車や165系電車にて各輪軸の横圧は各台車の進行方向前側が後側より常に大きくなっていることに着目し、進行方向前側の支持剛性を柔らかい設定としたものであった。そのため進行方向に合わせて支持剛性を変える必要性が生じ、各軸箱には支持剛性の可変機構が内蔵された。
1994年8月に落成した当系列試作車両にも同じ機構が採用されたが、平均横圧は期待通り低減できたものの、各輪軸の横圧発生状況は想定と異なる結果となった。詳しい分析の結果、ボルスタレス台車では常に前側ではなく、車両端側の横圧が大きくなっていることが判明した。そこで1996年6月から落成した量産車では、車両端側の支持剛性を柔らかい設定で固定とし、可変機構を省略したことで保守性も向上した新しい自己操舵機構とした。試作車両についても量産車と同様に改造された。
なおこの2種類の自己操舵機構は、それぞれ別にJR東海が特許を出願している。
ブレーキ装置
回生・発電ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキである。発電ブレーキを搭載するのは、列車本数の少ない区間では回生ブレーキが機能しないこと(回生失効)があるためである。
その他設備
保安装置はATS-ST形とATS-PT形を搭載する。
補助電源装置は静止形インバータ (SIV) のC-SC36形、電動空気圧縮機 (CP) は静粛性に優れるスクロール式を採用する。
クロ383形
運転台をもつグリーン車で、設備の差異で区分がある。
基本番台 (Tsc1)
前頭部にパノラマタイプの客室を備え、貫通扉は装備しない。定員は44名である。6両編成の長野方先頭に組成される。
100番台 (Tsc2)
併結運用に対応するため前頭部に貫通扉を備える。定員は44名である。4両編成の長野方先頭に連結される。
クモハ383形 (Mc)
運転台をもつ制御電動車で、前頭部に貫通扉を備え、客用扉は片側2か所に設ける。定員は60名である。各編成の名古屋方先頭に連結される。
モハ383形
運転台のない中間電動車で、6両および4両編成に組成される。設備の差異で区分がある。
基本番台 (M1)
車椅子対応設備を有し、定員は59名、客用扉は片側2か所である。
100番台 (M2)
一般の座席設備のみを有し、定員は68名、客用扉は片側1か所である。6両編成にのみ組成される。
クハ383形 (Tc)
運転台をもつ制御車で、2両編成の長野方に組成される。車端部にトイレを設ける。
サハ383形
付随車で、6両および4両編成に組成される。設備の差異で以下の区分がある。
基本番台 (T1)
客用扉は片側1か所で、車端部に和式トイレを設ける。定員は64名である。6両編成にのみ組成される。
100番台 (T2)
客用扉は片側2か所で、車端部に洋式トイレを設ける。定員は60名である。
基本編成である6両編成と増結用編成である4両編成・2両編成の走行距離を極力均等化するため、4両編成+2両編成で組成された定期運用が存在する。かつては季節列車格下げ以前の夜行急行「ちくま」での運用があったほか、「セントラルライナー」の輸送力不足対応として、専用の313系8000番台を追加製作するまで運用された例がある。
2007年に臨時・波動用として残存していた381系が廃車されたため、繁忙期に大糸線白馬駅まで乗り入れる臨時「しなの」81・84号も383系A101 - A103編成での運行に変更された。
2014年7月9日に発生した大雨の影響で南木曽駅 - 十二兼駅間の橋りょうの橋桁が流されたため、11日に上松駅まで運転再開した際に便宜的に特急しなのの停車駅に準じた臨時快速の運用についている。8月6日の再開に先駆け5日まで運用された。
東海383系電車
基本情報
運用者 東海旅客鉄道
製造所 日本車輌製造
川崎重工業
日立製作所
製造年 1994年 - 1996年
製造数 76両
運用開始 1995年5月
主要諸元
編成 6両(標準編成)
4両・2両(増結編成)
(MT比はいずれも1:1)
軌間 1,067 mm
電気方式 直流1,500V
(架空電車線方式)
最高運転速度 130 km/h(曲線通過 +35 km/h)
起動加速度 2.1 km/h/s[1]
減速度(常用) 3.8 km/h/s(非増圧)
5.1 km/h/s(増圧時)
編成定員 6両:355名(グ44+普311)
4両:227名(グ44+普183)
2両:112名(普通車のみ)
編成重量 6両:213.5 t
4両:141.0 t
2両:75.0 t
全長 20,800 mm(中間車)
21,915 mm(非貫通先頭車)
21,000 mm(貫通先頭車)
全幅 2,852 mm
全高 3,725 mm
車体 ステンレス
(前頭部のみ普通鋼)
台車 自己操舵機能付き制御振子ボルスタレス台車
(ヨーダンパ付)
C-DT61・C-TR245A
主電動機 C-MT65形
主電動機出力 155 kW
歯車比 5.57
編成出力 155kW×12= 1,860 kW(6両編成)
制御方式 VVVFインバータ制御
(GTOサイリスタ素子)
制御装置 C-SC35形
制動装置 回生・発電併用電気指令式ブレーキ
抑速ブレーキ付き
保安装置 ATS-ST
ATS-PT
Wikipedia laurier W.png第36回(1996年)
ローレル賞受賞車両